コラム
【コラム】サイコパスに帝王的権力を与えた大統領制、米国だけなのか
トランプ大統領のある親戚は「幼いころ、私たちはドナルドをサイコパスと呼んだ」と述べた。以前からトランプ大統領については「おしめを着けた大人」など数多くの別名があるが、中でもこの「サイコパス」という言葉は最も適切な表現だろう。サイコパスとは「規律に従わない」「自分の利益のために平気でうそをつく」「衝動的」「攻撃的」「無謀」「責任感がない」「他人を傷つけても自分が悪いとは思わない」といった性格面での特徴があるが、トランプ大統領はこれらのほぼ全てに該当する。
トランプ大統領は米国と世界の規律を破壊した。大統領だった4年間に1万回以上のうそをついた。今も毎日うそをついている。普通ならうそは他人がよく知らないことについてだますものだが、トランプ大統領は誰もがうそだと分かるうそを平気でつく。これは反社会的な性格障害だ。あまりにも衝動的で無責任だ。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長と行ったリアリティーショーの映像をもう一度見ると、この衝動的で無責任な人間にわが国の安全保障がゆだねられていたという事実にぞっとする。韓米連合訓練を「金がかかる」との理由でその場でなくしてしまった。これは国防長官でさえ知らなかったという。韓国には突然「5倍の防衛費を出せ」と言ってきた。他人を傷つけても自責の念がないどころか、逆に得意顔をしている。
米国は世界的な羨望と尊敬の対象だったし、その資格がある国だった。そのような国が4年前にサイコパス大統領を選んだ。当時の米国人はトランプ大統領についてよく知らなかったのかもしれない。しかし今回米国の有権者はトランプ大統領の4年間を見たにもかかわらず7100万もの票を投じた。バイデン氏の当選以上に驚くべきことは、このサイコパスを支持した米国の有権者が全体のほぼ半分に達するという事実だ。
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サイコパス大統領は偶然のハプニングで登場したのではない。もちろんトランプ現象の根底には世界化、IT(情報技術)経済に伴う社会の二極化、さらには人口に占める割合が低下している白人たちの焦りがある。しかしわずか二つの政党が「大統領」という現代の王座を巡って文字通り休むことなく、死ぬか生きるかの戦いを繰り広げる大統領制の根本的な問題は深刻だ。大統領制は寿命を終えたにもかかわらず、今も死んではいない。認知症でありゾンビだ。4年前にトランプ大統領は全体の得票数は少なかったがそれでも大統領になった。自らを支持しない国民の方が多かったにもかかわらず、自分勝手に王としての権力を振るったのだ。勝者独占の大統領という地位は本来そういうものだ。内閣制の首相にもおかしな人間はいるが、大統領ほどの権力はない。トランプ大統領の反対側は歯ぎしりをした。今回破れたトランプ大統領の支持者たちも歯ぎしりしているだろう。国に物事の道理というものがないのだ。
インターネットにおけるSNS(会員制交流サイト)は衆愚政治の強力な道具だが、これも同じくトランプ現象に大きな影響を及ぼした。かつてはトランプ大統領のような人間のうそや突発的な言行は、最初からメディアによって検証され分別された。ところが今はSNSを通じて大衆に直接語り掛ける。大衆は真剣に考える政治家から顔を背け、リアリティーショーのようなトランプ大統領の言行に熱狂する。トランプ大統領によるツイッター政治は汚物が浄化槽を経ず河川に直行するようなものだ。
一時期「SNSは民主政治を一層発展させる」と考えられた時期もあった。それが日がたつごとに逆の現象が起こっている。誰もがネットでは見たいものだけを見て、聞きたいことだけを聞こうとする。事実は力を失い、衝動や面白さ、刺激だけが力を得る。青瓦台(韓国大統領府)による蔚山選挙工作という深刻な事件は知っている人の方がむしろ珍しいが、一方で野党代表が寺に干し肉を送った失敗談については誰もが知っている。これがSNS政治だ。国民は統合ではなく「モーセの奇跡」のように完全に二つに分かれている。半分に分かれた国民は自分たちの側の全ての過ちに目をつむる。トランプ大統領が得た47.6%の票がその結果だ。文在寅(ムン・ジェイン)政権のコンクリート支持率も同様だ。トランプ大統領以上のサイコパスであっても、ポピュリズム政策とSNSを利用し、国民をうまく分裂させれば50%前後の票を得られるのだ。
勝者独占の大統領制、死ぬか生きるかの二大政党制、国民衆愚化の道具であるSNS。これらが結合し、民主主義の脅威となっているのは米国だけのことだろうか。米国で大統領が王とするなら、韓国の大統領はそれ以上の「至尊」だ。二つの政党が死ぬか生きるかの戦いを繰り広げるのも米国以上だ。韓国のSNS政治技術はおそらく世界最高だろう。
韓国は大統領王国でありSNS王国だが、これを変える方法はない。「国民は自分の意志で大統領を選ぶ」と言われるが、それでも未練を持ち続ける。このような状況で韓国でも「サイコパスの資質」を持つ政治家がすでに登場しており、あるいは登場する予定だ。彼らはトランプ大統領ほど露骨ではない。仮面をかぶりながらうまくショーをやる。しかし世の中を見る目はゆがんでおり、他人に対しては過度な敵対心を抱いている。他人には過酷で、自分たちには寛大だ。自分たちの側の勝利と利益は国の将来以上に優先される。うそを演劇のせりふのように口にし、それがばれても恥ずかしいとは思わない。間違いを正すどころか強弁し、逆ギレしながら目をむく。傲慢(ごうまん)と我執の固まりだ。外から見える姿と実際の姿があまりにも違う。この全てにSNSがうまく利用されている。
トランプ大統領はシリアからの撤退という軍事面・外交面での重大な決定を合同参謀本部議長に一言も相談せず、ツイッターで最初に知らせた。韓国にもこのような大統領が間違いなく登場するだろう。もしかするとその日が近づいているのかもしれない。
楊相勲(ヤン・サンフン)主筆