米カリフォルニア大学バークレー校の心理学者ケルトナーは「権力者の脳は前頭葉を損傷した患者の脳とあまり区別がつかない」と言った。権力者たちが、共感能力を喪失したソシオパス(社会病質者)のようにはばかることなく人をさげすみ、自分のことは持ち上げて、非倫理的な行為を合理化するのも、そのためだというのだ。文在寅(ムン・ジェイン)政権を批判する本を出した進歩系学者は、ケルトナーの説を引用して、「善なる権力を標ぼうした集団が『ネロナムブル(私がすればロマンス、他人がすれば不倫=身内に甘く、身内以外に厳しいこと)』の化身になったらどうすればいいのか」と書いた。彼は文在寅政権のネロナムブル事例をまとめていたが、あまりにも多くてやめてしまったとも書いている。

 ネロナムブルと言えば、多くの人がまずチョ国(チョ・グク)前司法長官のことを思い浮かべることだろう。同前長官はラテン語で「私の祖国(韓国語で『チョ国』と同じ発音)」を意味する「patriamea」というIDを使い、過去10年余りにわたってソーシャル・メディアに1万5000件以上の書き込みをした。そのうち相当数が李明博(イ・ミョンバク)政権・朴槿恵(パク・クネ)政権時代の不条理を厳しくしかる内容だ。ところが、このようにカッコいい言葉の数々が、本人と文在寅政権に向かって例外なくブーメランになって返ってきている。「一語一句が自らを怒鳴りつける声」と冷笑する人も多い。

 チョ国前長官は与党の加徳島新空港(釜山市)推進を擁護し、空港の名前を「盧武鉉(ノ・ムヒョン)国際空港」にすればいい、と言った。すると、8年前に同前長官が「選挙シーズンになると、また土木公約が猛威を振るう」と新空港推進を批判した投稿があらためて話題になった。「ネロナムブルだ」と指摘されると、チョ国前長官は「以前の投稿を見つけようとご苦労なことだ」と皮肉を言った上で、「考えが変わった」と書いた。「I changed my mind(私は考えを変えた、または私は気が変わった)」という曲も投稿した。本当に一般人とは脳の構造が違うようだ。

 チョ国前長官夫妻は2016年、息子の米国大学のオンライン試験を2回、代わりに受けたが、ほぼ同じ時期に崔順実(チェ・スンシル)娘の不正受験疑惑については「驚がくする」と書いた。以前、「公認検証過程で虚偽があったとしても法制裁してはならない」と言っておきながら、自分自身を非難したメディアの報道に対しては訂正報道、損害賠償請求を続けている。前政権時、「どんな顔で長官職に居続けて捜査を受けているのか」と怒鳴りつけたが、自身が捜査を受けている時もしばらくの間、長官職に居続けた。ほかの教授の政治参加に対しては「ポリフェッサー」(polifessor=政治家〈politician〉として活動をする教授〈professor〉)と批判しながら、自分は「アンガージュマン」(engagement=フランス語で知識人の社会運動参加)だと言った。

 過去の自身の文章や発言に揚げ足を取られる有名人は多い。時代や状況が変わったケースもあるだろう。それでも発言を180度翻したり、明らかなダブルスタンダード(二重規範)であることが発覚したりすれば、普通は口を閉ざし、「振り」だけでも恥じ入っている様子を見せるものだ。チョ国前長官のように、いっそう大きな声で詭弁(きべん)を並べたて、国民を絶えずうんざりさせる人は珍しい。現政権はネロナムブルの選手が多いが、チョ国前長官の足元にも及ばない。

イム・ミンヒョク論説委員

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