米国務省は1日(現地時間)、昨年だけで788件の北朝鮮制裁違反に関する情報を入手し、これらを中国に提供したが、「中国は1件も取り締まりを行わなかった」としてその具体的な事例を細かく公表した。国務省はさらに「中国が正しい行動を取るまで米国はただ待つわけではない」として、「北朝鮮による制裁違反の事例について一般人から通報を受けた場合、最高で500万ドル(約5億2000万円)の報奨金を支払う」とするウェブページをこの日開設した。

 国務省は昨年6月、「制裁違反について通報すれば報奨金を支払う」とする制度を導入したが、北朝鮮だけを狙ったウェブページを開設するのは今回が初めてだ。国連安保理決議で禁止されている核・ミサイル開発を続ける北朝鮮と、これを経済面で下支えする中国を同時に狙った措置とみられる。米国における政権交代の時期に中朝による挑発的な行為を遮断し、バイデン政権発足前から制裁措置を強化するという意味合いもありそうだ。

 米国務省のアレックス・ウォン対北朝鮮政策特別副代表はこの日、戦略国際問題研究所(CSIS)が開催した「ポストコロナにおける北朝鮮経済の展望」と題されたウェビナー(ウェブセミナー)で「昨年だけで数百件の対北朝鮮制裁取り締まり関連情報を中国に提供したが、中国当局はこれについて1件も取り締まりを行わなかった」と明らかにした。ウォン副代表は「昨年、中国海軍や海岸警備隊のある中国沿岸において、北朝鮮による違法な石油の積み替えに関係する船舶が活動しているとの情報を46件中国に提供した。しかし中国当局は1件も取り締まりを行わなかった」と説明した。さらに「北朝鮮に密輸した疑いのある船舶が中国沿岸で活動あるいは徘徊(はいかい)中である様子についても32件の目撃情報があり、これらを中国側に伝えたが、中国当局は1件も対応を取らなかった」とも明らかにした。

 ウォン副代表は「昨年は石炭など、国連制裁で取引が禁じられている物資を積んだ船舶が北朝鮮から中国に向かう様子を目撃したとする情報だけで555件あった」「中国当局はこれらの船舶をストップさせる措置を1回も行わなかった」と公表した。さらに「そのうちの400隻以上は北朝鮮の旗を掲げた船舶で、それらは主に(浙江省)寧波のように中国における活発な(産業)地域に向かった。入港するには船舶の船籍、出港地、寄港地といったデリケートな情報を地元当局に提出しなければならないはずだ」と指摘した。「北朝鮮船舶は深夜に泥棒のようにひそかに入港するのではなく、ドアを激しくノックして正式に入港しているが、中国当局は何の対処もしていない」ということだ。

 ウォン副代表は「中国のバージ船が、国連の対北朝鮮制裁で取引の禁じられた物品を積んで北朝鮮に向かったケースだけで155件あり、これらは北朝鮮で再び貨物を積んで戻っているが、中国は何もしなかった」とも説明した。ウォン副代表が明らかにした事例を全て合計すれば、米国が入手あるいは提供した情報は合計788件に上る。ウォン副代表は「中朝貿易がとりわけコロナ後に減少しているのは確かだが、報告されていない違法な貿易は今も深刻だ。他のどの国もこれほどの規模で北朝鮮と違法な取引はしていない」として「(中国は)沿岸海軍と大洋海軍に巨額の予算を投入し、監視技術にも巨額の投資を行う政府だ」「国連制裁を実行する能力はあるが、そのようにはしていない」などとも指摘した。

 ウォン副代表はさらに「アンゴラ、カンボジア、モンゴル、アラブ首長国連邦(UAE)などの国々は、数万人の労働者を送り返し、北朝鮮政権に対して核兵器開発のための輸入をさせないようにした」「しかし中国は今なお2万人の北朝鮮労働者を雇い入れており、今年初めに中国当局は北朝鮮人が中国で働くことを逆にやりやすくした」と主張した。ウォン副代表は「中国には北朝鮮の大量破壊兵器(WMD)調達機関が少なくとも20以上存在する。中国は数年前に彼らを追放すべきだったが、そうはしなかった」とも明らかにした。その一方でウォン副代表は「米国は中国が正しいことをやるまではただ待つわけではない」「北朝鮮による制裁違反に関する情報を全世界から受け付けるホームページを開設した」と説明した。

 近く米国務省のスティーブン・ビーガン副長官と共に来韓すると予想されるウォン副代表は「性急な制裁解除は北朝鮮が真摯(しんし)に非核化交渉に出てくる動力を失わせる。その結果、われわれの誰もが望む北朝鮮の経済的繁栄を逆に遠ざけてしまう」とも指摘した。「事実をありのままに言えば、北朝鮮経済を最も困難にしているのは北朝鮮政権による核兵器開発だ」とも断言した。これは「北朝鮮をして非核化交渉に応じさせるには、制裁解除という『アメ』を与えるべきだ」と主張する韓国の政府・与党の考え方とも違いがある。

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