ソウル市永登浦区で暮らす主婦のコさん(52)は最近、大型スーパーに行くのが怖い。今年初めまでは家族4人分の買い物をするのに10万ウォン(約9700円)あれば十分だったが、このごろは20万ウォン(約1万9000円)でも足りない時があるからだ。コさんは「おかずの数を減らすしかない。韓牛(高級韓国産牛肉)コーナーには1-2カ月行っていないと思う」と言った。日々の食費から家賃まで、物価が上がっている。昨年0.5%にとどまっていた物価上昇率は、今年2月に1.1%と1%台になり、その2カ月後の4月には2.3%と明らかに上昇幅が大きくなっている。2.3%は韓国銀行の物価管理目標(2%)を上回る数字だ。

 市場では、最近の景気回復の流れに乗って、物価の上昇は続くだろうという見通しが出ている。これまで政府が抑えてきた公共料金の値上げが相次ぐ可能性があるとの見方だ。ソウル市議会は同日、水道料金を8.3%(家庭用基準)引き上げることを決めた。9年ぶりの引き上げだ。原油価格上昇が続けば、電気代も上がる可能性がある。

■インフレは食卓から

 先月の物価上昇を主導したのは農畜水産物と石油類だった。食卓物価と直結する農畜産物の価格は13.1%上昇した。今年2月(16.2%)や3月(13.7%)よりは上昇幅が小さいが、今年1月から4カ月連続で2けたずつ上がっている。長ネギの価格は1年前に比べ270%上がった。今年3月(305.8%)より上昇幅が鈍ったが、それでも依然として3けただ。リンゴ(51.5%)、卵(36.9%)、唐辛子粉(35.3%)、豚肉(10.9%)なども大幅に上がっている。統計庁関係者は「農産物は昨年の梅雨や台風、今年初めの寒波などで作況が良くなく、畜産物は高病原性鳥インフルエンザの影響で価格が上がった」と説明した。

 石油類の価格は13.4%上昇した。これは2017年3月(14.4%)以来、4年1カ月ぶりの上昇率だ。軽油価格が15.2%、ガソリン価格が13.9%、自動車用液化石油ガス(LPG)価格が9.8%上昇した。統計庁関係者は「今年に入って世界経済が回復し、全世界的に石油類の需要が増加している。このため、国際原油価格は最近、1バレル当たり60ドル(約6600円)台まで上がった」と説明した。

 昨年4月には新型コロナの影響で1バレル=15ドル(約1600円)前後まで下がった国際原油価格だが、その後上がり始め、今年に入ってからは60ドル前後まで回復している。

 これに加えて家賃の負担も大幅に増えている。先月の家賃(1.2%)は2017年12月(1.2%)以来、3年4カ月ぶりの高さだった。伝貰(チョンセ=契約時にまとまった額の保証金を賃貸人に預け、月家賃がない不動産賃貸方式)の上昇率は1.6%、月家賃の上昇率は0.7%だった。伝貰上昇率は2018年4月(1.7%)以来、月家賃の上昇率は2014年10月(0.7%)以来の高さだ。

 昨年は新型コロナ禍で小規模商工業者や自営業者など、庶民の暮らしが特に厳しくなったが、今年は食料品価格、原油価格、家賃まで急上昇して負担が増しているのだ。専門家らは「新型コロナ以降、インフレーション(持続的な物価上昇)の恐れが庶民の食卓から始まった」と警告する。延世大学のソン・テユン教授は「現在の物価上昇は景気回復に伴う物価上昇ではなく、農畜水産物や石油類などの供給ショックによる物価上昇」「国民が感じる体感物価はさらに高いだろう」と語った。

■政府は「一時的な現象にとどまる」

 専門家らは、当分の間は物価上昇率が2%台と高止まりするものと見ている。昨年の低物価によるベース効果で国際原油価格も上昇を続ける可能性が高いからだ。新型コロナワクチンの普及で海外旅行が増え、「リベンジ消費」が生産を引き上げれば、石油類の需要が増えざるを得ないからだ。2%を上回る過度な物価上昇はインフレにつながり、新型コロナ以降の国民経済に負担となる恐れがある。だが、政府は「インフレに対する懸念は行き過ぎだ」との見解を示している。企画財政部の李億遠(イ・オクウォン)第1次官は同日、「4-6月期には新型コロナによるベース効果で物価上昇幅が2%を超える可能性が高いが、下半期には農畜水産物の価格と原油価格が安定して再び1%台に下がるだろう」「今年の年間ベースでは、物価上昇率が2%を超える可能性は限定的だ」と述べた。同次官は以前も物価上昇を「一時的な現象」と言い、「過度なインフレ期待として拡散されないよう、物価安定に総力を挙げる方針だ」と明らかにした。

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