韓国のゲーム会社クラフトンは6日、インド現地にウェブサイトを開設し、中国とインドの国境紛争による影響でインド市場から撤退させられた自社のシューティングゲーム「バトルグラウンドモバイル」のサービス再開を宣言した。撤退から7カ月ぶりだ。

 バトルグラウンドモバイルは昨年10月30日、インドの全てのモバイル向けアプリストアから消えた。インドが対中報復で中国のアプリ275種類を現地から追放した際、そのブラックリストに含まれたからだ。中国のインターネット企業大手、テンセント(騰訊)がゲームの運営を行っているという理由だった。テンセントはクラフトンの2位株主で、韓日を除く世界各地でバトルグラウンドモバイルの運営を担当している。追放当時インドではバトルグラウンドモバイルの1日当たりユーザー数が約3300万人に達していた。一夜にして巨大市場を失ったクラフトンは1カ月後に現地法人を設立し、「ゲームを直接配信する」として、事態収拾に乗り出した。そのために1億ドル(約109億円)を超える投資も約束した。韓国ゲーム業界関係者は「クラフトンは被害が大きいが、大株主であるテンセントに抗議したり、賠償を請求したりすることは困難な状況だ」と指摘した。

 韓国ゲーム業界で今、「チャイナリスク」が高まっている。中国の外交・政治的な問題で流れ弾に当たるケースが起きているからだ。その背景には巨大資本を武器に韓国の多くのゲーム企業に多額の投資を行ってきた中国・テンセントの存在がある。

■韓国ゲーム業界に深く浸透したテンセント

 テンセントは今年だけでもロイヤルクロー、アンドユー、アクトファイブなど韓国の小規模ゲーム開発会社に数十億-数百億ウォンを投資し、各社の筆頭株主または2位株主となった。過去4年間新作がなかったネイバーの「ラインゲームズ」にも最近500億ウォン(約49億円、持ち株比率5.57%)を投資した。クラフトンの世界的人気作バトルグラウンドをテンセントが支配下に収めたように、これら企業が今後発売する新作にもテンセントの息がかかり、自由が利かない見通しだ。さらに、テンセントはネットマーブルの3位株主(17.55%)、カカオゲームズの2位株主(4.29%)の座を占めている。テンセントはモバイルゲーム市場が本格的に拡大し始めた2010年ごろから韓国のゲーム会社に対する投資を拡大してきた。

 テンセントの影響力を最も克明に示す例はクラフトンだ。2019年5月、バトルグラウンドの中国でのサービスが終了した日、テンセントは同ゲームをコピーした「和平精英」というゲームを投入し、既存のバトルグラウンドのユーザー、データをそのまま引き継いだ。クラフトンは中国市場を一夜にして奪われても、「両社の円満な合意による措置だ」とだけ説明した。しかし、韓国ゲーム業界からは「バトルグラウンドに許可証が下りず、他に選択肢がなかったはずだ」との分析が聞かれる。このほか、テンセントが昨年末、クラフトンへの出資比率を13.2%から16.4%に引き上げ、筆頭株主である同社のチャン・ビョンギュ議長と出資比率の差が1ポイントに縮まったことも要因として挙げられる。

■「テンセントのリスクは韓国のリスク」…懸念する韓国ゲーム業界

 テンセントに対する中国政府の規制がますます強化されていることも懸念材料だ。中国政府が電子商取引大手アリババ(阿里巴巴)に独占禁止法違反で約182億元(約3050億円)の罰金を科したのを目撃したテンセントは、中国政府による次のターゲットになりはしないかと身を潜めている。実際に昨年8月に中国で事前予約者は6000万人を突破し、大きな期待を集めたネクソンの「ダンジョンアンドファイター(アラド戦記)モバイル」は中国政府から「青少年保護策が不十分だ」とする指摘を受け、9カ月もサービスを開始できずにいる。テンセントがゲームを開発したネクソンに中国政府の要求に合わせたゲームの全面修正を求め、サービス開始が無期限に延期された格好だ。

 ゲーム業界には中国政府がテンセントを通じ、韓国ゲーム企業に無理な要求を突きつけかねないとする懸念もある。実際に今年3月、米ライアットゲームズの世界最大のeスポーツ競技である「リーグ・オブ・レジェンド」の中国地区プロリーグの放送でスポンサーである米ナイキのロゴが全て消去されるという出来事が起きた。ナイキが人権問題で論争となった中国・新疆ウイグル自治区の綿花を購入しないと決めたことに対する報復措置だった。ライアットゲームズ本社は米国にあるが、2011年にテンセントに買収され、中国政府の介入を避けられなくなった。ゲーム業界関係者は「テンセントが韓国企業への支配力を現在のように急速に拡大すれば、韓国企業もいつ中国政府が左右する将棋の駒に転落するか分からない」との不安を漏らした。

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