日本の剣客・宮本武蔵は伝説的な剣術家だが、晩年に書いた2冊の書によって、日本の武士道の始祖として有名になった。極意に達すれば、意識の流れに身を任せ、不思議な力を出したと言われる。宮本武蔵がこのような精進を通じて完成させようとしたのが、両手に刀を持って戦う二天一流剣法だった。

 『独行道』は宮本武蔵の2番目の書だ。「世々の道をそむく事なし(世の道理に逆らわない)」「身にたのしミをたくます(自分の楽しみを考えない)」「身をあさく思ひ世をふかく思ふ(自分のことは浅く、世のことを深く思って生きる)」「一生の間よくしん思わす(一生、欲望にとらわれないようにする)」…。修身書としては粗悪だと評されているが、この書によって日本の剣道は戦いの技術を超えて武士道へと進化した。

 日本では、いわゆる「修業」を重視する。技術や学業を身につけ、切磋琢磨(せっさたくま)する精進のことを言う。料理、掃除、肉体労働までこの段階を経るように要求される。「すしを握るまでの3年間、皿洗いだけだった」という日本の職人にはよくある話も、これに当てはまる。しかし、日本でも価値観が変化し、過酷な修行が徐々に省略されているという。そのためか、日本のあちこちで見られた「世界一」の店々も以前ほどではないと言われている。

 この伝統が生きている分野が日本の野球だ。甲子園で行われる高校野球大会の目標が変わらないからだ。甲子園大会は礼儀と節度を強調する。勝ってもいつまでも喜んでいてはならず、あいさつをする時、敗者が頭を上げるまで勝者は腰を曲げていなければならない。選手たちは髪をそらねばならず、原色のユニホームはタブーで、背番号もない。主催者が与えた番号の布を付けるだけだ。甲子園大会に出場したという栄光の象徴だ。勤勉と規律を強調し、怠慢とわがままに警戒する日本学生野球憲章は宮本の独行道に負けない。ほかのスポーツに比べて野球のスキャンダルが少なく、世界の舞台での成功事例が多いのも、子どものころ、甲子園大会出場のために修練を積んだからだという話がある。

 日本の野球選手・大谷翔平が米大リーグのオールスター戦に、投手であると同時に打者としても出場する。米国の野球史上、初めてのことだという。大谷は「誰も行ったことのない道を行きたい」と前人未到の投打兼業「二刀流」で米国に進出した。片手にボール、片手にバットを持った「宮本武蔵式二天一流」と言うべきか。紆余(うよ)曲折も多かったが、4年の精進の末、大記録を打ち立てた。投手でありながら本塁打数1位になるという事実自体が驚異的だ。大谷も小学校3年生の時に甲子園を目指して野球を始めたという。大リーグで通算3000安打の記録を立てたイチローも天才ではなく、日々精進するタイプだった。注目すべき精神だ。

鮮于鉦(ソンウ・ジョン)論説委員

ホーム TOP