「イ・ジュンソプ夫妻の言葉と国境を越えた愛の物語が、凍り付いた韓日関係を溶かす小さな薫風になることを願っています」

 日本の3大出版社の一つ「小学館」から韓国の国民的画家イ・ジュンソプ(李仲燮、1916-56年)とその日本人妻・山本方子(100)=韓国名:イ・ナムドク=について書かれたノンフィクション『愛を描いたひと イ・ジュンソプと山本方子の百年』が出版された。2013年から18年までソウル特派員を務めた毎日新聞の大貫智子記者(46)が5年にわたる取材を経て出した本だ。

 大貫記者は6月28日、朝鮮日報との電話インタビューで、「イ・ジュンソプ、山本方子夫妻の愛を取材している間、幸せだった」「イ・ジュンソプの作品と生涯を日本にも広く知らせたい」と語った。同記者は2016年に韓国国立現代美術館の徳寿宮館で行われた「イ・ジュンソプ生誕100周年記念展」でイ・ジュンソプの世界に夢中になった。特に同記者をとりこにしたのは、代表作の「牛」や「銀紙画」(タバコの箱の包み紙である銀ぱく紙に描いた絵)ではなく、家族にあててかいた絵ハガキだった。日本人妻の方子夫人と2人の息子を描き、心を込めて文章をしたためたものだ。同記者は「イ・ジュンソプがやや不十分な日本語で懐かしい思いを込めてしたためたハガキに強く感動した」と語った。

 大貫記者は、その年の11月6日付毎日新聞1面で、イ・ジュンソプ100周年記念展のニュースを報道した。韓国戦争(朝鮮戦争)と貧しさを避けて日本に戻った妻と息子たちを恋しがりつつ、40歳で早世したイ・ジュンソプの人生を日本の読者にも知らせようとしたものだ。この記事を見た大手出版社・小学館の若い編集者が「イ・ジュンソプの話を取り上げた本を出そう」と連絡してきた。当時、小学館の右翼雑誌で嫌韓記事を取り上げていたこの編集者は「今は韓日間の温かい人の話を取り上げた本を出してみたい」と言って出版を提案したという。

 それから4年間、大貫記者はイ・ジュンソプの足跡が残る東京・釜山・済州島・統営などの現地で自ら取材し、方子夫人と次男・泰成さん=韓国名:李泰成(イ・テソン)=らに数回会った。イ・ジュンソプと方子夫人が交わした手紙50通もの貴重な取材資料となった。これをもとに解放と戦争という激動の時代を生きたイ・ジュンソプとその家族の物語を1冊の本にまとめた。

 この本は昨年の「第27回小学館ノンフィクション大賞」を受賞した。小学館が1993年に同賞を制定して以来、韓国関連の本が大賞を取ったのは初めてだ。韓国語版のタイトルは『帰らざる河』になる予定だ。イ・ジュンソプが死ぬ直前、北朝鮮に残した母親や、日本の家族を恋しがり、最後に残した作品の名前から取ったものだ。大貫記者は「韓国語版を通して、これまで韓国であまり知られていなかったイ・ジュンソプ死去後の方子夫人の生涯を知ってもらえれば」と語った。

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