韓国軍内部での暴力・いじめが赤裸々に描写されたネットフリックスドラマ『D.P. -脱走兵追跡官-』(以下『D.P.』)の人気に、韓国軍が困っている。このところセクハラ、不正給食問題などでひどい目に遭っている状況で、ドラマによって韓国軍に対する否定的な印象がさらに拡大するのではないかと懸念しているのだ。

 韓国国防部(省に相当)が6日のブリーフィングで、ドラマに対し公式反応を出すという異例の行動を取ったのもこのため。国防部のムン・ホンシク副報道官は、『D.P.』で描かれた韓国軍内部での暴力について「暴行、いじめなど兵営の不条理を根絶できるよう、持続的な兵営革新の努力を傾けてきた」とし「日課後の携帯電話の使用などで、悪質な事故が隠蔽(いんぺい)され得ない兵営環境へと現在変わりつつある」と語った。

 『D.P.』で描写された韓国軍内部の暴力は、与野党の大統領選ランナーまで言及する状況になっている。与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事は6日、『D.P.』関連で「青年たちを絶望させる野蛮の歴史から終わらせるのがMZ世代(1981-2012年生まれ)政策」だと語った。保守系最大野党「国民の力」の洪準杓(ホン・ジュンピョ)議員は「軍内部のいじめがないとは、まだ言えないだろう。若者たちがそういう目に遭っているのは非常に胸が痛む」と語った。

 『D.P.』が軍隊の不条理な状況を現実的に反映したかどうかを巡っては、意見が分かれている。『D.P.』の舞台は2014年、江原道のある陸軍憲兵部隊だ。番組には▲睡眠中の後任兵にガスマスクをかぶせて水責め▲くぎが打たれた壁の側に後任兵を押し出して痛めつける▲厳しい状況にある後任兵の母親の手紙を先任兵が読み上げて「お前の家は物乞いか」と暴言▲夜間勤務中の後任兵に自慰行為を強要▲夜間、後任兵を集合させて殴打▲後任兵のズボンや下着を脱がせてライターで体毛を焼く-などのいじめが登場する。

 韓国軍関係者は「2014年の一線部隊に存在した不条理と見るにはちょっとひどい」「全般的な感覚としては、2000年代中盤くらいのことをドラマチックにしているように思う」と語った。チョン・インボム元特殊戦司令官も「10-15年前の、軍紀が最も乱れていた部隊で起きそうな、最も極端な状況を集めたのではないか」と語った。1990年代に陸軍兵士として服務したという40代のある男性は「私たちのころも、ああいうひどいいじめはなかった」と語った。

 しかし、当時の韓国軍の状況を反映した最小限の蓋然性を備えたもの、という指摘もある。2014年には陸軍第28師団で先任兵が後任兵を殴って死なせた「尹(ユン)1等兵事件」、陸軍第22師団で仲間外れに耐えられず、武装脱走した兵長が銃器を乱射した「任(イム)兵長事件」が相次いで発生した。韓国軍内部のいじめはその後もたびたび問題になった。空軍第18飛行団では、今年7月まで先任兵が後任兵に暴言、侮辱、セクハラなどのいじめを行っていた疑惑が浮上し、今月1日には「空軍教育司令部の助教らが昨年、後任兵の肛門に電気ドリルを押し当てた」という主張も出てきた。2015年に除隊したという20代のある男性は「自分の軍隊生活を見ているようだった」と語った。20・30代の予備役の男性の間からは「ドラマを見てPTSD(心的外傷後ストレス障害)が出そう」という声も上がっているという。

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