国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシー事務局長は13日(現地時間)に開催されたIAEA理事会で「北朝鮮が寧辺のウラン濃縮施設で冷却装置を除去したとみられる動きを目撃した」と明らかにした。これは最新のIAEA報告書にもない内容で、最近まで稼働中断状態にあったウラン濃縮施設が再び稼働した兆候と解釈されている。

 これに先立ちIAEAは先月末に公表した報告書の中で「寧辺で今年7月初めから冷却水の放流が確認された。これは2018年12月に稼働が中断した5メガワット原子炉の再稼働を示唆している」と指摘した。ウラン濃縮施設を稼働した場合は高濃縮ウラン(HEU)が、原子炉を稼働して出てくる使用済み核燃料を再処理すればプルトニウムが得られる。いずれも核兵器の原料だ。北朝鮮が寧辺の核施設をフル稼働しているということだ。

 北朝鮮によるこれら一連の動きについてグロッシー事務局長は「深刻な問題」と指摘し「北朝鮮が核開発を続けることは国連安全保障理事会決議に明らかに違反する行為であり、非常に遺憾だ」と述べた。

 しかし韓国政府は14日「北朝鮮への人道支援協力がより活性化することを期待する」として関連する告示を改正し、全国全ての地方自治体を「対北支援事業者」に指定したと発表した。韓国統一部(省に相当、以下同じ)の李仁栄(イ・インヨン)長官もこの日、国会で「北朝鮮に対する制裁の緩和」と「柔軟な対応の必要性」に言及した。寧辺核施設がフル稼働したとのニュース以外にも、前日には北朝鮮が「新型巡航ミサイルの開発に成功した」と宣言したが、それにもかかわらず李長官は融和を呼び掛けるメッセージを発したのだ。これについて韓国のある外交官OBは「大韓民国の安全保障を危険にさらす北朝鮮の核・ミサイル警報音が相次いで鳴り響いているのに、政府のどの部処(省庁)も北朝鮮に対する遺憾の表明どころか、どうすれば餅を与えられるかばかり考えている」と指摘した。

 統一部による今回の告示改正により、17の広域自治体と226の基礎自治体は特別な申請手続きなしに対北支援事業者に一括指定された。自治体が北朝鮮支援事業を行う際には1兆2400億ウォン(約1160億円)規模の南北協力基金から支援を受けることができる。上記の一連の措置について統一部のある当局者は「北朝鮮住民を支援するための人道主義的な協力について、政府はこれまで政治的・軍事的状況とは別に、中断することなく推進すべきとの考えを堅持してきた。このような立場には今も全く変わりはない」と説明した。これは「北朝鮮がミサイルを発射したにもかかわらず、北朝鮮への人道事業を進める考えに変わりはないのか」との質問に答えたもの。

 李仁栄長官も国会での質疑で「人道主義的な協力は制裁と根本的に矛盾する過程ではないと考えているので、大胆に推進しなければならないと思う」と証言した。李長官はさらに「今制裁の緩和あるいは柔軟な態度を示すことを通じ、北朝鮮が非核化交渉に出られるよう促さなければ、今後同じような機会を得るのは難しいと思う」との考えも示した。

 前日に韓国外交部の鄭義溶(チョン・ウィヨン)長官は韓国とオーストラリアとの外相・国防相会議(2プラス2)後に行われた記者会見で「北朝鮮による核・ミサイル開発が(6カ月ぶりに)再開されたが、これは一連の問題の根本的な解決に向けて北朝鮮との対話、関与、外交が急がれていることを強く示している」と述べた。韓国外交部はこの日、東京で開催された韓国、米国、日本の協議、さらに韓米協議でも「北朝鮮への人道協力事業、北朝鮮との信頼構築など、北朝鮮を関与させるためのさまざまな方策について議論が行われた」と伝えた。

 専門家は「北朝鮮の核開発と新型ミサイルが韓国の安全保障に及ぼす影響を考えれば、韓国政府の対応はあまりにも安易だ」と指摘する。とりわけパトリオット・ミサイルやTHAAD(高高度防衛ミサイル)など2重・3重の防衛網が構築されている弾道ミサイルとは違い、地をはうように低い高度で飛来する巡航ミサイルは探知そのものが難しく、現在のミサイル防衛網では対処できない可能性が高い。韓国国防部の徐旭(ソ・ウク)長官はこの日行われた国会での質疑の際、野党・国民の党の李泰珪(イ・テギュ)議員が「北朝鮮は巡航ミサイルに小型の核弾頭を装着できるのか」と質問したのに対し「可能と判断している」と証言した。

 このように韓国政府が深刻な安全保障上の脅威から顔を背ける背景には、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の任期末に「平和ショー」を行いたい未練が今も残っているためとみられる。ある外交筋は「韓国政府が南北と米国の和解ムード再稼働のきっかけになると期待していた東京オリンピックに北朝鮮は参加しなかった。さらに来年2月の北京冬季オリンピックも北朝鮮の参加が不透明な状況になっている。そのため(韓国政府は)これまで以上に切迫しているようだ」と述べた。政府と与党勢力は国際オリンピック委員会(IOC)が北朝鮮の加盟資格を停止した後も希望を捨て切れないようだ。鄭義溶長官もこの日行われた国会での質疑で「北朝鮮の北京冬季オリンピック参加問題は完全に終わったわけではないと思う」と証言した。今回の巡航ミサイル発射に口を閉ざすことも、「『平昌アゲイン』のきっかけを残しておくためには『北朝鮮を刺激したくない』」という脅迫観念があるためのようだ。

 上記の外交筋は「まともな政府であれば、北朝鮮の新型巡航ミサイル開発成功に対して『対話』ではなく『制裁の強化』を先に主張するはずだ」と指摘した。米国でも同じような声が出始めている。トランプ政権のホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)で北朝鮮担当局長を務めた民主主義防衛財団(FDD)のアンソニー・ルッジェーロ上級研究員は14日、米政府系メディア「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」とのインタビューで「バイデン政権は今回の巡航ミサイル発射に対抗し、大統領就任後では最初の北朝鮮制裁を発動するべきだ」と主張した。

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