北の偵察総局で5年間大佐として勤めた脱北者、BBCのインタビューで証言

 北朝鮮の偵察総局で大佐として勤めた幹部クラスの脱北者キム・グクソン氏(仮名)が「1990年代前半に北朝鮮から韓国へ直接派遣された工作員が、青瓦台(韓国大統領府)に潜り込んで5-6年勤務し、無事に北へ復帰したことがある」と語った。11日に英国BBC放送が公開したインタビューで明らかになった。1990年代前半は盧泰愚(ノ・テウ)政権=1988-93年=および金泳三(キム・ヨンサム)政権=1993-98年=時代だ。

 北朝鮮のスパイが南に派遣されて活動し、韓国国内の主要人物との接触や抱き込みを行った例は過去にあったが、青瓦台で数年間働いて北に戻ったという暴露は前例がない。キム氏は「(現在も)北朝鮮工作員が南の方々の重要機関はもちろん、幾つもの市民社会団体で猛烈に活動している」と語った。これについて国家情報院(韓国の情報機関。国情院)は「北の工作員が90年代前半に青瓦台で勤務したという関連内容は事実無根」と表明した。

 キム氏は北朝鮮の情報機関でおよそ30年勤め、とりわけ2009年2月に金正恩(キム・ジョンウン)が自らの権力強化のため創設した対南・海外工作業務総括指揮機関である偵察総局で5年間、大佐として勤務したといわれている。キム氏は2014年に脱北して韓国国内に定着した後、国情院傘下の機関で働き、数年前に退職したという。BBCは「彼が暴露した全ての内容を検証することはできないが、彼の身元は確認されており、一部の主張が事実と一致することを確認した」と伝えた。

(1)「青瓦台で北朝鮮の工作員が働いていた」

 キム氏が「青瓦台に南派スパイが勤務していた」と暴露した時期は1990年代前半だ。その当時、北朝鮮の権力序列22位にまで上った南派スパイ、李善実(イ・ソンシル)が韓国国内で朝鮮労働党中部地域党を組織し、395人の社会指導層を入党させたという事件が発覚したこともあった。

 キム氏はこの日のインタビューで「(私が)スパイを直接育成し、韓国へ派遣した」とし「(スパイが韓国で)工作任務を遂行したのは数件」と語った。また「(青瓦台で働いて)北へ復帰した工作員は(偽ドル事業を行う)朝鮮労働党314連絡所で勤務した」と、極めて具体的に証言した。BBCは「キム氏が開発した北朝鮮の対南戦略目標は『南朝鮮政治の(北朝鮮)隷属化』だった」と伝えた。

(2)哨戒艦「天安」攻撃は金正恩が直接指示

 キム氏は、2010年の哨戒艦「天安」爆沈事件と延坪島砲撃挑発が金正恩の「特別指示」だとも主張した。キム氏は「天安と延坪島の作戦に(自分が直接)関与したことはないが…」としつつも「(両作戦とも)金正恩の特別指示によって工作され、履行された軍事成果」と語った。キム氏の主張が事実であれば、金正恩は権力を継承する2011年より前から軍事作戦を指揮していたことを意味する。

 またキム氏は「1997年に韓国へ亡命したファン・ジャンヨプ元最高人民会議常任委員長の暗殺もまた金正恩が直接指示した」と語った。キム氏は「2009年5月に、韓国へ亡命した北朝鮮官僚を暗殺するためのテロ対策班を結成しろと命令が下った」とし「ファン・ジャンヨプ先生にテロを行うためのタスクフォース(特別作業班)が極秘裏に結成され、私が直接(暗殺作戦の)指揮、工作を遂行(した)」とも語った。しかし、ファン・ジャンヨプ氏暗殺は成功しなかった。キム氏は、金正恩について「自分が『戦士』だということを証明したがる若者」と評価した。

(3)北朝鮮は麻薬生産基地を作った

 キム氏は、朝鮮労働党傘下の作戦部や海外情報機関である35号室、対外連絡部などでも勤務し、金氏一家の統治資金調達のための事業にも関与した。キム氏は「1990年代の『苦難の行軍』時代に金正日(キム・ジョンイル)の革命資金が底を突いたが、私が3人の外国人を北朝鮮に連れてきて麻薬生産基地を作り、運営した」「氷(覚せい剤を指す隠語)をドルにして金正日の革命資金として納めた」と語った。

 労働党作戦部の武器輸出事業もまた、重要な資金源だった。キム氏は「北朝鮮は特殊小型潜水艦、半潜水艦、ユーゴ級潜水艦を非常に先端化してうまく作った」とし「北朝鮮の官僚がイランの参謀総長を呼び寄せて売り込むほど」「北朝鮮は主に、内戦状態が長期間続いている国々へ武器や技術を売った」とも語った。

(4)張成沢粛清後に脱北

 BBCは、キム氏が2014年に北朝鮮を脱出した理由について、キム氏は粛清された張成沢(チャン・ソンテク)氏の側近だったからだと解釈した。BBCによると、キム氏は金正恩の叔母(張成沢氏の妻)からもらったベンツを乗り回し、自由に海外旅行ができたという。キム氏が張成沢氏の側近だった可能性を指摘したのだ。キム氏は「(2013年12月の張成沢氏処刑のニュースを聞いて)驚いたという表現を通り越し、驚愕(きょうがく)した」とし「自分はもはや北朝鮮に存在できない人間だな(と思った)」と語った。

 キム氏は、BBCのインタビューに応じた理由について「北の同胞を独裁の手から解放するため」とし「私が韓国へ来た後も、北朝鮮には全く変化がない。0.01%も変わっていない」と語った。

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