話題の一冊
北朝鮮製の有名ブランド服が登場する背景とは
キム・スンジ著著『世界の縫製工場、北朝鮮』(ヌルプム・プラス刊)
中国のとある対北実業家が2016年に語った「CJが北朝鮮製の服を販売した」という話が、長期間にわたる探査作業になり、一冊の本として出版された。本書では、アディダスやリーボックなど有名ブランドはもちろん、米国のスーパーボウルほか主要イベントなどで北朝鮮労働者の作った服が使われる過程が、比較的細かく描写されている。本書が出版されたのは2020年。実際にそうだとしても、これは「昔はそうだった」という話であって、中国を経由した迂回(うかい)生産や下請けのプロセスに対し、今ではもう少し厳しい管理をしているのではないだろうか? トランプ政権期には中国との対立が起きており、より高いレベルの制裁があったではないか。本書を読んでいて、終始こうした気掛かりが頭にあった。本書を閉じる最後の瞬間に、中国の新型コロナ問題がやって来た。
「中国に防護服やマスクの製造注文が殺到した。防護服の生産は、相当数の注文が中朝国境地域の工場に回り、北朝鮮の労働者は防護服作りに専念した。2020年5月、丹東では北朝鮮労働者のいる工場の90%以上が防護服を生産していると現地消息筋は伝えた」
ジャーナリストのキム・スンジェ氏が書いた『世界の縫製工場、北朝鮮』(ヌルプム・プラス刊)は、国連による制裁下で北朝鮮の労働者と工場がいかにして、有名ブランドはもちろん米国や欧州などの服を生産するようになったかをルポ形式で記録・分析した一冊。米国主導の北朝鮮制裁は相当厳しく、研究レベルの基本的協力も不可能なものが多い。造林協力事業により北朝鮮で育成している樹木を調べようと試みたが、センサーの種類が軍事品なので全く搬入されなかった-という事例を目にしたことがある。こういう状況で、北朝鮮は一体どのように経済を維持し、迂回ルートを確保しているのか、本当に気になった。
欧州の数多くの高級ブランドにとって、中国に工場を構えるか否かは会社の死活に関わる重要な決定事項になることがあった。中国の人件費が高くなった後、ベトナムに工場を移すべきかどうかを巡っても、似たような論争を見たことがある。おそらく北朝鮮制裁がなければ、韓国人がよく目にする有名ブランド品は、今ごろは北朝鮮製として輸入されていただろう。高い教育水準に、安い人件費。今の北朝鮮は、服はもちろんのこと安くて高品質な音響機器に至るまで、多くの製造業が最も好む地域だ。本書は、巨大な地下経済を題材にしている。北朝鮮開放の技術的可能性の一つを見るかのようだ。
ウ・ソクフン聖潔大学教授・経済学者