▲10月29日午後、ハロウィーン・デーを前にソウル市竜山区の繁華街・梨泰院(イ・テウォン)に繰り出し、さまざまな扮装(ふんそう)をして祭りを楽しむ若者たち。写真=李泰景(イ・テギョン)記者

 「国籍不明の西洋のお化けごっこがそんなに好きだったのか?」。先月29日にソウル市内の繁華街・梨泰院(イテウォン)で発生した「ハロウィーン雑踏事故」。これは、ソウル中心部で起こった前例がほとんどない悲劇を目の当たりにして全国民が衝撃を受け哀悼の意を表す中、インターネット上に投稿された一部の人々のゆがんだ発言だ。

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 私は、そうした発言はハロウィーンに対する無知に端を発すると考えている。現在のハロウィーンは、中世ヨーロッパのケルト人が冬を迎える祭り「サウィン祭」、古代ローマの死者の祭り「フェラリア祭」、さらにはメキシコとラテンアメリカで毎年10月31日から11月2日まで行われる「死者の日」と同じ日付だが、別物だ。現在のハロウィーンは特定の国や宗教圏の伝統的な祭りでは収まらなくなった。全世界の若者たちが共有するグローバルな大衆文化の祭りになっている。

 昨年のハロウィーン・シーズンを思い出してみよう。韓国ドラマ『イカゲーム』がネットフリックスを通じてブームになった。すると、全世界の若者たちが『イカゲーム』の中の登場人物に扮(ふん)して街に出て、楽しく過ごした。今年10月8日に朝鮮日報とインタビューした米国のポップアーティスト、マット・ゴンデック氏が言ったように、今の子どもたちは聖画ではなく漫画を見て育つ。現在のハロウィーンは宗教ではなく、大衆文化が中心となった新しいタイプの祭りだとみるべきだ。

 梨泰院ハロウィーン雑踏事故をめぐり、「西洋のお化け」うんぬんするのが正しくないのはこのためだ。犠牲者や現場に繰り出した人々はほとんどが20代前後の若者たちだった。彼らは8年前、小中高生の時に貨客船セウォル号沈没事故を目撃し、しばらく経って新型コロナウイルス流行で青春を「ロックダウン」された世代だ。3年ぶりに街に戻ってきた彼らを見て、誰が後ろ指をさすことができるだろうか。犠牲者を哀悼し、負傷者の全快を祈り、若者たちをいたわりつつ、事故の原因を把握し、同じことが再び起こらないように全力を傾けるべきだ。

 2022年の大韓民国でこのような事故が発生した原因は何だろうか。「数多くの人々が集まると予想できたはずなのに、警察官など規制のための人員が足りなかったからだ」という人もいる。現場の状況を撮影した動画などを根拠に、誰かが事故発生時、「押せ、押せ」と叫んでいたことを挙げ、「そうした危険に満ちた行動を取った常識以下の市民意識が原因だ」と言う人もいる。政権交代後、毎週末ソウルの中心地で行われている大規模集会やデモのため、警備が手薄にならざるを得なかった現実を指摘する声にもそれなりの説得力がある。

 問題は、災害と事故に対する韓国社会の議論に政治が過度に介入しているということだ。梨泰院事故発生直後の先月30日、野党・共に民主党のシンクタンク「民主研究院」の南英姫(ナム・ヨンヒ)副院長がソーシャル・メディアに掲載した文章を見てもそれが分かる。「百歩譲っても原因は全て(ソウル市)竜山の国防部にある大統領室に集中した警護人材のせいだ」「依然として(ソウル市瑞草区)瑞草洞のアクロビスタ(大統領私邸がある高層マンション)から出退勤する珍しい大統領、尹錫悦(ユン・ソンニョル)のせいだ」という南副院長の投稿は、あまりにも不適切であきれたもので、共に民主党の支持者たちからも非難され、現在は削除されている。

 まさにそのような態度が韓国社会を安全からいっそう遠ざけている。振り返ってみよう。2014年のセウォル号沈没事故以降、韓国社会で「安全」を呼びかける声が不足したことは一度もなかった。「安全のために涙する国民がただの一人もいなくなるようにします」。2017年4月、当時の文在寅(ムン・ジェイン)共に民主党大統領候補が「生命安全の目」というオブジェに書いた誓いの言葉だ。大統領になった彼は、行政自治部と国民安全処を統合して行政安全部を新設した。文前大統領は自ら先頭に立ってセウォル号を国民安全の象徴にした。

 ところが、その結果はどうだっただろうか。大韓造船学会と韓国科学技術団体総連合会が出てきて説明しても、社会的惨事特別調査委員会は現実性のない外部衝突説にこだわっている。セウォル号事故陰謀論で映画を作って一役買ったインターネット・メディアのジャーナリスト、金於俊(キム・オジュン)氏は今も毎朝、交通放送(TBS)のラジオ番組のマイクを握っている。災難を政治的に活用する「災難の政治化」を超えて、今や政治そのものが災難となる「政治の災難化」が進んでいるのではないか。

 ハロウィーンに罪はない。韓国社会がこのような悲劇に見舞われる原因は「西洋のお化け」のせいではない。「政治の亡霊」のせいだ。安全を政治の論理で振り回すようなことは二度と繰り返してはならない。そうすれば原因を正しく把握し、長期的に実効性のある対策を立てることができる。犠牲者とその家族に深い哀悼の意を表す。

ノ・ジョンテ(経済社会研究院専門委員・哲学)

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