マサチューセッツ工科大学(MIT)メディア・ラボのスターとされていた伊藤穣一元所長は、ホームページに謝罪文を掲載し、2019年にその座を退いた。未成年に対する性犯罪加害者である実業家のジェフリー・エプスタインと数回にわたって交流し、寄付金を受け取ったことが明らかになったためだ。伊藤元所長は、エプスタインによる性犯罪は知らなかったとしながらも「誰よりも被害者に謝罪する」と述べた。エプスタインが刑務所で自ら命を絶ってから1年後のことだった。

 あれから4年がたった今、エプスタインに対する米社会の断罪行為は現在も進行中だ。学界・財界・金融界を網羅する数多くの人物が彼との関係の明らかになったことで辞職に追い込まれたり調査を受けたりしている。今週だけでも大きなニュースが少なくとも3件は報じられた。進歩系学者のノーム・チョムスキーMIT教授、ニューヨークの名門バードカレッジのレオン・ボットスタイン学長のエプスタインから金銭を受け取っていたことがマスコミを通じて暴露された。これとは別にドイツ銀行は被害者に合意金として7500万ドル(約103億円)を支給することにした。未成年の女性たちに怪しいお金が振り込まれていたにもかかわらず、措置を取らず犯罪を拡大したとの理由からだ。ドイツ銀行は再発防止に向け、従業員の教育などシステム改善に5兆ウォン(約5200億円)以上の資金を投入することにした。ウォール街の大物、JPモルガンのジェームズ・ダイモン会長も同様の事件で検察の取り調べを受けている。

 米国社会は死後も執拗(しつよう)に犯罪の責任を暴き追及する。「死んだら誰もが仏様」と言っているようでは問題の再発を防ぐことはできない、といった共同体内の暗黙の了解があって初めて可能となる。こうした慣行は、「犯罪者は死んでも、被害者の残された人生は守られなければならない」という信頼をベースとしている。制度の不備を徹底的に洗い出し、改善して犯罪を防ごうといった趣旨もある。

 ねずみ講式の金融詐欺(ポンジスキーム)を犯したバーナード・マドフもまた「死んだ悪党」だ。2008年に収監され、2021年4月に獄中でこの世を去った。米法務省はマドフの財産を追跡し、被害者に返済する作業を15年にわたって続けている。昨年9月だけでも域外の逃避先から3億7200万ドル(約513億円)を回収し、被害者に返金した。今年初めは彼の邪悪な犯罪について解き明かしたドキュメンタリー『バーナード・マドフ:ウォール街の詐欺師』がネットフリックスで公開された。監督のジョー・バーリンジャーは「規制当局と金融専門家たちが『警告』を無視した場合、災いがどれほど拡大するのかを表現したかった」と語っている。

 日本では、また別の死者による犯罪が波紋を呼んでいる。有名芸能プロダクション「ジャニーズ事務所」の創業者である故・ジャニー喜多川氏(2019年死亡)による過去の練習生に対する性加害問題が明らかとなり、社長が週初めに謝罪した。事務所側は加害者の釈明を聞けないとの理由から「被害を訴えている方々」という表現を使用したことについて論議を呼んではいるものの、「その方々に深く深くおわび申し上げる。決して許されないことだと思う」と頭を下げた。日本議会は未成年者に対する性加害を防止する制度作りに着手した。

 韓国にもこの世を去った性犯罪者がいる。ソウル市長という強大な地位を悪用して部下の職員に対してセクハラを繰り返し、その事実が明らかになると2020年に自ら命を絶った。国家人権委員会は2021年、同人物によるセクハラとソウル市の対処が誤っていたことを認め、再発防止策を勧告した。裁判所もこれを再確認した。にもかかわらず、元市長の家族と支持者たちは、3年にわたって被害者のことを偽物だと攻撃してきたほか、今では犯罪者を美化したドキュメンタリーまで作って公開するという。

 エプスタインから研究費を受け取っていたが2019年に謝罪文を発表したMIT機械工学科のセス・ロイド教授は、次のように書いた。「被害者の皆さまに謝罪し、許しを請います。私はエプスタインの釈明ではなく、警察の調査、裁判の結果、マスコミ報道などが明らかにした事実を、より執拗に確認していくべきでした」。朴元淳(パク・ウォンスン)元ソウル市長が引き起こした事件についてはさまざまな「事実」が公開されている。人権委ホームページの検索欄に「ソウル市長セクハラ」と検索するだけで、犯罪内容は確認できる。読解力が低下してしまったのか。性犯罪者を賛美するというやからがいまだに騒ぎを引き起こしている。失ってしまった韓国社会の品格を再び取り戻すのは容易でない。

キム・シンヨン国際部長

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