「一部で『日本が敗北するだろう』というベッティング(賭け)をしています。ですがこれは、明らかに誤った判断です。そして歴史の流れもきちんと把握していません。この方々は日本の歴史と社会制度を理解できておらず、日本国民が天皇陛下の指導の下で『日本の夢』という偉大な夢を実現しようとしている確固たる意志も知らず、ひたすら机上の空論ばかりを言っています。断言できるのは、現在、日本の敗北にベッティングしている人々は後で必ず後悔するということです」

 駐韓日本大使が韓国高官を大使館内に着席させて公にこんなことを言ったら、何が起こるだろうか。その後の状況を想像するのは難しくない。与野党・党派を問わず強く抗議し、「ノー・ジャパン」運動が繰り広げられ、激高した一部の人々は日本大使館前に駆け付けてその大使の追放を叫んで激しくデモを行い、遂には深刻な暴力デモ事件が起きるかもしれない。国交断絶へ至る大事件にまで拡大することもあり得る。

 今、日本大使は上記のようなことを決して言えない。もしこういうことを言ったとしたら、その時期は120年前くらいのある日のことだろう。国防も経済も脆弱(ぜいじゃく)な韓国(大韓帝国)に向かってそういうことを言っても、相手はどうすることもできないだろうと判断して初めて、そういうことが言える。言ってもよさそうだから、言うのだ。伊藤博文は1905年11月の乙巳勒約(いつしろくやく。第2次日韓協約)を前に「韓国は君主と臣下の間に陰謀が多い上に、国を守るだけの力がなく、常に東洋平和を害する禍根となっている」と発言した。当時、席にいた韓国の高官顕職の面々は、こういう言葉を聞いてもまともな抗議一つできなかった。そうして結局は亡国に至った。

 皆が知っている事実だが、冒頭の引用は駐韓中国大使が言ったもので、ただ「中国」を「日本」に、「習近平主席」を「天皇陛下」に変えただけだ。中国大使は120年前ではなく2023年、今からわずか10日前の6月8日に、韓国の野党代表団を大使館の席に着かせ、上記のことを公に言った。しかし、その後の状況は違った。与野党・党派を問わぬ強い抗議だとか、「ノー・チャイナ」運動が繰り広げられるとか、激高した一部の人々が中国大使館前に駆け付けてその大使の追放を叫ぶなんぞということは起きなかった。中国大使は、そういうことを言っても相手はどうすることもできないだろうと判断したのだろう。言ってもよさそうだから、言うのだ。こういう言葉を聞いても、その場にいた韓国の野党代表団は抗議一つできなかった。今を120年前のある日と錯覚しているのか。

 筆者が暮らしている地域の共に民主党の国会議員は最近、あちこちに垂れ幕を掲げた。「独島に行ってきました。対日屈辱外交を必ず食い止めます」と書いてあった。何をもって屈辱と言っているのか、首肯し難いが、野党議員らは大統領の対日外交を屈辱だと決め付け、攻撃できると思っている。しかし、物差しは正大かつ一貫したものであるべきだ。この議員は、中国大使の妄言に対してはこれまで何の垂れ幕も掲げていない。この議員だけではない。野党議員の中で、中国大使の発言に憤怒と屈辱を感じ、抗議した人がいるというニュースを聞いたことがない。

 李在明(イ・ジェミョン)代表は事件直後、「中国政府の態度は適切なものではないが、国益を守り抜くため共同で協調する方向を探るのが重要ではないか」と語った。正しい発言だ。相手がぞんざいに出てきても、われわれは品格を守ればいい。しかし、李代表が「日本政府の態度は適切なものではないが、国益を守り抜くため共同で協調する方向を探るのが重要ではないか」と言ったことがあるとは聞いたためしがない。いくらネロナムブル(自分がやったらロマンス、他人がやったら不倫。ダブルスタンダード)が特技でも、巨大野党の選択的屈辱と選択的憤怒は度を越している。

李漢洙(イ・ハンス)文化部長

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