寄稿
怠惰な者たちの世界史、陰謀論【寄稿】
2023年欧州最高の観光都市に挙げられたワルシャワには、見どころが多い。疎い人の目には入らない見どころも多いが、断然目立つのは「陰謀論」だ。
ホテルで荷物を解き、公営放送の「ポーランドTV(TVP)」を見ると、野党「市民プラットフォーム(PO)」の指導者で、過去にポーランド首相、欧州連合(EU)行政トップを歴任したドナルド・トゥスク氏を攻撃するドキュメンタリーが放送されていた。
「私はダンチヒ人です(Ich bin ein Danziger)」。ポーランド首相の資格でドイツを訪問したトゥスク氏がドイツ語で自己紹介した言葉だ。かつてドイツとポーランドの間で領土紛争が絶えなかったグダニスクを「ダンチヒ」と言い換えているこの映像を繰り返し見せる理由は明らかだ。
野党指導者のトゥスク氏はドイツの利害のためにポーランドの魂を売り払う「土着独寇」だというのだ。また、ドキュメンタリーでは、トゥスク氏の母方の祖父がユダヤ系の姓であることをそれとなく明かすことで、保守系有権者らの反ユダヤ主義に期待しようとする焦りも見えた。
全く同じ公営放送が、1年前には「ワルシャワの私たち」というドキュメンタリーで、首脳会談時にプーチン大統領と笑顔で握手をして抱擁するトゥスク首相の姿をアップで写し出し、「土着露寇」として追及していた。トゥスク氏はドイツとロシアに代わる代わる民族の魂を売り払う民族の裏切り者だという陰謀論で、極右カトリック民族主義政党の「法と正義」はなかなかいい思いをした。
陰謀論の長いリストの中でも、ポーランド政治の公論の場において最も支配的なのは「スモレンスク陰謀論」だ。2010年4月10日、ロシアのスモレンスク空港に近い森にポーランド大統領機が墜落したことで、陰謀論は始まった。
この大統領機の墜落でレフ・カチンスキ大統領夫妻、国立銀行総裁や多数の国会議員、軍参謀総長をはじめとする高官・将官などポーランドの政治エリート96人がそろって命を落とした。一行は、カチンの森でスターリンの秘密警察が2万2000人のポーランド軍将校や知識人を虐殺した「カチンの森事件」70周年記念式典に出席するため飛行機に乗り、犠牲になった。
綿密な現場調査とブラックボックスの記録を基に作られた長文の政府報告書は、事故原因をはっきりと示した。濃い霧と悪天候、ロシアの地方空港とロシア製大統領機(ツポレフ154)の低劣な技術水準、コクピットに入ってきた空軍参謀総長の帰港不可命令とパイロットのプレッシャーなどだ。
しかし事故発生から十数年が経過した今でも、政権与党を支持する極右的な反ロシアのカトリック民族主義者らの間では、ロシア陰謀論が支配的だ。ポーランドの民族エリートを抹殺するためにロシアのスパイが大統領機に爆弾を仕掛けた、というように。
陰謀論のむちゃくちゃな想像力は、ロシアのスパイが飛行機に接近するのは困難だから内通者が必ずいたはずで、それは誰か-という質問へとすぐに飛躍する。それがまさに、ポーランド民族をひそかに害しようとする外部勢力と結託した売国奴だという「正しい答え」が準備されている。
野党の主流である親西欧的なリベラルや社会民主主義者らは、「土着独寇」や「土着露寇」として追い込むには格好の存在だ。ポーランドの極右カトリック民族主義者らが開陳するこの民族主義陰謀論は、韓国の自称「進歩(革新)派」の人々が繰り広げる「土着倭寇」騒ぎと驚くほど似ている。
ポーランド極右のスモレンスク陰謀論は、韓国の自称左派が語る哨戒艦「天安」陰謀論とおかしなほど似ていた。彼らは、チベットや新疆ウイグルの少数民族に対する中国共産党の虐殺すら、帝国主義の陰謀や宣伝だと思っているらしい。「パンをくれ」と言って街頭に繰り出した労働者蜂起を西洋帝国主義の扇動や陰謀だと責め立てた、東欧各国の共産党の陰謀論とも似ている。
韓国極右の光州陰謀論も負けていない。反共主義者・池万元(チ・マンウォン)の「北朝鮮軍狂秀」説は、光州をはじめとする南の民主化運動は全て北が指導したという、北朝鮮の「民主基地論」とそっくりだ。彼は、自らの「北朝鮮軍狂秀」説が北の主張と同じ路線だということに気付くこともできないらしい。
陰謀論が、メディアに「くつわ」をかませて物を言えなくし、公論の場が活性化され得なかった独裁の遺産であることは明らかだ。だからと言って、陰謀論者らの知的怠慢を受け入れることはできない。彼らの想像する世界は、悪い敵のせいで世の中がこんなことになっているというマニ教的二分法から一歩も踏み出せない、小学校の世界史レベルだ。
自己省察的政治の地平に立つとき、敵の敵は味方ではなく、自分の敵でもある。
林志弦(イム・ジヒョン)西江大学教授(歴史学)