▲ラファエル・グロッシIAEA事務局長が7月9日午前、ソウル市汝矣島の韓国国会で開かれた「共に民主党」の福島原発汚染水海洋投棄阻止対策委員会との会合で考え込んでいる様子。/写真=ニュース1

 「(国際原子力機関〈IAEA〉の)報告書の内容は根拠もなく、証拠もない空疎なものであるというべき」。7月5日、IAEAのグロッシ事務局長訪韓を前に、進歩(革新)系最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表が尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領に向けて突き出したメッセージだ。一言で表現すると「IAEA不信論」だ。

 こうした考えは、李代表一人だけのものではない。韓国の野党政治家や支持層の間にあまねく広がっている。ある野党系ネットメディアは「日本政府がIAEAを買収した」というような陰謀論を流布する記者会見を開くということまでやった。日本とIAEAが「八百長」をしているという発言も出た。

 この人々は、なぜこういう話にもならない扇動を続けるのだろうか? 科学的事実のみを並べてみれば、中学2年生でも理解できることだ。だがこの人々は説得されない。これは科学の問題だが、それが全てではない。特定の政治勢力が共有する世界観の問題が根底に存在しているのだ。

 韓国憲法の前文をちょっとのぞいてみよう。「悠久の歴史と伝統に光り輝くわが大韓民国は、三・一運動で建立された大韓民国臨時政府の法統」を継承すると明示されている。ここで核心となる言葉は「大韓民国」だ。大韓「民国」が存在する前、既に大韓「帝国」という主権者らがおり、彼らが新たな国を作り出した-という建国叙事だ。

 三・一運動が起こった背景を考えてみる必要がある。国際連合の前身である国際連盟の創始者、ウッドロー・ウィルソン米国大統領は民族自決主義を主唱した。各民族には自分の政治的運命を自ら決定する権利があり、この権利は他民族の干渉を受け得ない、というものだ。

 第1次世界大戦の戦勝国かつ世界最強の大国である米国が、新たな国際秩序を提示していた。これは、天子の国・中国を中心に周辺として他国を朝貢の対象とする中国式国際秩序とは根本的に異なるものだった。

 ウェストファリア条約以降形成された近代的主権国家システムを全世界に同等に適用すべきだという原則論に、植民地朝鮮人らはすぐさま呼応した。三・一運動は、単に日帝の治下から抜け出そうとするものではなかった。日本の支配から抜け出し、中国の亡霊を振り払い、米国が提示する新たな国際秩序に賛同しようという巨大なあがきだった。

 大韓民国は、その出発から、新たな国際秩序の産物だったというわけだ。これは、大韓国民が大韓民国を形成してきた歴史を振り返ってみると一層はっきりする。韓国という国は新たな国際秩序が作りだした最初で最高の作品なのだ。

 解放された韓半島に単一政府を樹立するため2度にわたって開かれた米ソ共同委員会は、結局、失敗に終わった。米国は1947年10月、国連総会に韓半島問題を上程した。そうしてオーストラリア、カナダ、中国、エルサルバドル、フランス、インド、フィリピン、シリアの8カ国の代表で構成される国連臨時朝鮮委員会(UNTCOK)が1948年1月9日、ソウル入りした。

 単独選挙を通して新たな政府を実現する道は、決して平たんではなかった。左派系列の政治・社会諸団体は選挙ボイコットにとどまらず、暴力とテロで新政府樹立を妨げようとした。UNTCOKが38度線以北に行けないのはソ連の反対のせいだったが、「国連はひたえに米国のかいらいでしかなく、だから分断の責任は米国にある」と無理な主張を叫んだ。

 韓国戦争が起きると、国連加盟国中21カ国が軍隊の派遣を申請し、そのうち16カ国が実際に兵力を差し出した。逆に、北朝鮮の側で戦争をした国はソ連と中国だけだった。国連の選挙で作られた国・大韓民国は国連の戦争で守られた国でもあったのだ。

 こんにちの現実に立ち戻ってみよう。IAEAは原子力の軍事的利用を防ぎ、平和的利用を奨励する国際連合傘下の独立機関だ。大韓民国は1956年から創設加盟国として加入している。逆に北朝鮮は、IAEAとコインの裏表の関係にある核拡散防止条約(NPT)について「不拡散体制はひたすら米国の立場のみを代弁してきており、非核諸国に対する干渉手段としてこの条約機構を活用している」と不満を見せていたもので、最終的にはNPTとIAEAいずれも脱退してしまった。

 IAEAを信用できないと言い張る人々を見ると、ふと気になることがある。あの人々は国連の主導した制憲国会議員選挙をどのように考えるのだろうか? IAEAが日本政府に買収されたという陰謀論と、国連が米国のかいらいであって大韓民国に「正統性」はないと非難する「解前史(解放前後史の認識)」の世界観を、別個のものと見ることができるだろうか?

ノ・ジョンテ経済社会研究院専門委員(哲学)

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