▲2019年10月の建国70周年軍事パレードに登場した東風(DF)17極超音速弾道ミサイル。/朝鮮日報DB

 ロシアの極超音速ミサイル「キンジャール(Kinzhal)」がウクライナに配備された米国製のパトリオット防空ミサイルに迎撃された後、中国が騒然となっています。これまで「空母キラー」「ゲームチェンジャー」と大々的に自慢してきた中国の極超音速ミサイル「東風(DF)17」も迎撃されかねないという不安感が強まったんですね。

 キンジャールは、ウラジーミル・プーチン大統領が「現在と未来のいかなるミサイル防衛システムも突破できる」とアピールしてきた、ロシアの次世代兵器です。このミサイルが1980年代に開発されたパトリオットにやられるのを見て、ショックが大きかったのです。

 中国のソーシャルメディアでは「DF17は大丈夫なのか」という書き込みを容易に見つけることができます。中国国内の専門家らは「DF17はキンジャールに比べて性能が優れているから迎撃は容易ではないはず」と主張しますが、苦しそうに見えました。

■「空母キラー」と自慢してきたが…

 台湾統一を狙う中国が最も恐れるのは、米軍の介入です。西太平洋に配備されている米国の空母機動部隊が参戦したら、短期間で台湾を制圧するという中国の狙いが失敗に終わることは避けられません。かつて数回あった台湾危機の際も、中国は米空母機動部隊の武力誇示に膝を屈しました。

 中国は米空母機動部隊に対応するため、これまで対艦ミサイル開発に力を入れてきました。東風(DF)21、鷹撃(YJ)21といった対艦弾道ミサイルで空母の台湾海峡接近を遮断するという戦略でした。これを俗に「接近阻止戦略」と呼びます。ただし、こうした弾道ミサイルが米空母機動部隊のミサイル防御網を突破するのは容易ではありません。

 中国は2019年の建国70周年軍事パレードで極超音速ミサイル「東風(DF)17」を公開し、ひとしきり気勢を上げました。最高速度マッハ10で飛ぶ極超音速滑空体(HGV)「東風(DF-)ZF」を搭載し、米国のミサイル防御網を突破して空母機動部隊を攻撃できる-と大々的な宣伝攻勢をかけました。中国国内の軍事専門家らも「米空母はDF17の射程距離外にとどまるのがよかろう」と大声を上げました。DF17の射程は1800キロから2500キロ程度だといいます。

 米国防総省や統合参謀本部も、中国の極超音速ミサイル技術の発展スピードは急速で、脅威だと評価しています。ただし、迎撃や防御は容易でないものの、不可能とは思っていません。複雑な機動をする極超音速ミサイルの追跡のため、パトリオットシステムのレーダーの性能を大幅に引き上げ、レーダー探知の死角地帯を減らすためHBTSS(極超音速・弾道弾追跡宇宙センサー)という新たなシステムも開発し、間もなく配備するといいます。

■高熱の発生など弱点も多い

 米国や中国の専門家らがキンジャール迎撃について分析した資料を見ると、極超音速ミサイルは弱点が少なくありません。スピードは速いのですが、その分摩擦熱の発生が大きく、容易にレーダーで捕捉されます。スピードとレーダー回避という二つの目的を同時に達成することはできないのです。

 キンジャールは、高高度をマッハ2.8という速度で飛行するMiG31戦闘機に積んで発射されます。空気が薄い大気圏上層部では、最高でマッハ10のスピードを出すといいます。しかし空気の密度が高い低高度に来ると、速度がかなり落ちます。目標に接近する際はレーダーのシーカー(目標を検知して追尾する装置)を稼働させるためマッハ5以下に速度を落とすといいます。スピードが速いと弾頭部にプラズマ層が形成され、レーダーの作動を妨げるのです。キンジャールを早期に捕捉し、監視してきたパトリオットが、速度の落ちた瞬間を狙って迎撃したのだろう-というのが専門家らの分析ですね。

 DF17極超音速ミサイルは、弾道ミサイル形式です。準中距離弾道弾の1段目ロケットに点火して大気圏上層部まで打ち上げて、HGVを切り離すのです。

 大気圏外まで上昇して放物線を描いて落ちてくる弾道ミサイルと違って、このHGVは大気圏上層部に沿ってほぼ水平に飛行し、目標の近くまで来てから高速で落ちてくるので、早期の捕捉と迎撃は容易ではないといいます。そこで、いっそ宇宙から極超音速ミサイルの軌道をキャッチし、事前に対応しようという意図で開発中なのがHBTSSシステムです。

■米国、極超音速防御網の構築を本格化

 米国連邦議会予算局(CBO)と議会調査局(CRS)が年初に出した報告書を見ると、米国も2000年代中盤まで極超音速ミサイルを開発していたとのことです。しかし、極超音速飛行の過程で発生する高熱によりレーダーなどで探知されやすいなど、技術的難関が少なからず存在し、巨額の開発費に比して効果は不明確という点などを考慮して、低速であってもレーダー網を避けて打撃できるステルスミサイルの開発へと方向転換した、といいます。米国が事実上捨てた技術をロシアと中国が引き継いで、極超音速ミサイルを開発したのです。

 極超音速ミサイルはロシア、中国だけでなくイラン、北朝鮮なども開発に乗り出していますね。米国の緻密な防空網を突破する強力な非対称兵器になるだろうと見ているのです。しかしキンジャールがパトリオット・ミサイルに迎撃されたことで、こうした「極超音速神話」も崩壊するだろうとみられます。

 米CRSは今年2月の報告書で「米国防総省が今年、極超音速ミサイル研究の予算として47億ドル(現在のレートで約6560億円。以下同じ)を要求し、ミサイル防衛局(MDA)も極超音速ミサイル防衛予算2億2550万ドル(約315億円)を別途要求した」と明かしました。既に蓄積された技術も少なくないだけに、遠からずして中国やロシアよりも優れた極超音速ミサイルを開発してのけるものとみられます。

崔有植(チェ・ユシク)東北アジア研究所長

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