中国人民元の対ドル相場が2カ月近く弱含んでいます。5月中旬に1ドル=7元(オフショア人民元ベース)を割り込んだのに続き、6月末には7.25元まで下落しました。

 中国はウクライナ戦争による欧米の制裁を受け、ロシアとの貿易で人民元の使用が増えたことから、今年初めには「人民元がドルに対抗する」と威勢の良い声を上げました。南米の大国ブラジルのルラ前大統領を北京に招き、人民元建ての貿易決済を拡大することで合意しました。しかし、ゼロコロナ政策を解除しても予想より景気回復の足取りが遅く、5月には輸出まで減少したことが明らかになると、人民元の価値が大幅に下落しました。ドルに取って代わるどころか、人民元の価値維持が急務となりました。

 中国当局は6月末、人民元相場が7.25元を割り込むと、慌てて市場に介入しました。国有銀行が香港のオフショア人民元(CNH)市場でドル売りを行い、人民元防衛に乗り出したのです。市場関係者はそうした緊急対応にもかかわらず、人民元相場が7.3元を割り込んで下落する可能性が高いとみています。

■遅れる景気回復と人民元急落

 人民元相場は中国の外国為替当局が毎日基準レートを告示するオンショア相場と香港、ロンドン、シンガポールなどで取引されるオフショア相場に分かれます。二つの為替レートは大きな流れが一致しますが、細かい違いがあります。国際投資家はどうしても主にオフショア市場を利用します。

 人民元相場は常に変動しますが、中国当局は 1ドル=7元を防衛線と考えています。それ以上の人民元安を「破七」と呼び、警戒すべき状況と見なします。

 人民元相場は昨年10月に7.3753元まで下落したことがあります。ゼロコロナ政策がピークに達した時期です。海外投資家が相次いで中国市場から資金を引き揚げ、人民元の価値が急落しました。ゼロコロナ政策が解除された昨年12月になってようやく1ドル=7元以上の正常水準を回復しました。

 年明けに6.7元まで戻した人民元相場が再び危険水位に陥ったのは5月中旬でした。ゼロコロナ解除後も中国経済の回復速度が遅いことが明らかになり、人民元が再び力を失い始めたのです。5月の輸出が前年同月比7.5%減を記録したと発表された6月中旬からは下落ペースが速まり、7.2元を割り込みました。

■海外資金の離脱相次ぐ

 人民元安の最も直接的な要因は、米国と中国の金利差です。米国は昨年3月以降、物価上昇に対処するために急激に金利を引き上げています。一方、中国はゼロコロナによる景気低迷や不動産バブル崩壊に対応するため、利下げを続けました。

 ついに昨年9月、米中の金利が逆転し、最近は5年物国債利回りベースで金利差が1.5%まで拡大しました。

 国際投資家は昨年後半以降、中国の国債市場や証券市場から資金を引き揚げています。昨年第3四半期に1440億ドル、第4四半期に1068億ドルが流出し、今年第1四半期にも820億ドル相当の人民元資産を処分しました。人民元建ての資産を売りドルが買われることで、人民元の価値が下がり続けているのです。

 中国経済の先行きが悲観的であることも人民元安の重要な要因と言えます。今後中国経済がさらに悪化すれば、人民元の価値がさらに下がるはずだから、早めに処分して為替差損を減らそうというわけです。

■ロシア、45億ドル相当の人民元処分

 面白いのは、中国とともに「ドルからの脱却」を叫んでいたロシアが人民元を大規模に処分していることです。ロシアは昨年、対中貿易で354億ドルの黒字を上げました。人民元建てとルーブル建てで取引したので、それに相当する巨額の人民元がロシアに渡ったのです。今年も年初来5月までに80億ドルの黒字を出しました。

 ロシアは貿易で得た人民元のうち45億ドル相当を昨年1年間に売却しました。国内の為替市場でルーブルに変えた分があるほか、中国の国有銀行の口座を経由し、欧米の債権者に送金を行ったということです。人民元を売って確保したルーブルで財政の不足分を補ったほか、人民元を海外の債権者に対する債務返済にも使ったのです。今年に入っても毎月数億ドル相当の人民元を売却しているといいます。現在外貨準備高に占める人民元は約30億ドルにすぎないとされます。

 中国国内ではロシアが人民元を大量売却することに対する不満があふれています。中国にとっては、人民元を保有し続け、中国商品の輸入代金に使ってもらいたいというのが本音でしょう。

 一方、ロシアは中国がロシア国内で流通するのに十分な量の人民元現金を供給していないことに不満があります。そのため、自国通貨のルーブルやドル、ユーロなどに交換して使うしかないという言い分です。それに国際制裁のせいでドルを使うことができず、人民元を代用として使ってはいますが、長期保有する価値のある通貨だとは考えていないのです。

 もちろん1日で数千億ドルに上るオフショア人民元の取引規模からみて、ロシアの人民元売りが人民元相場に大きな影響を及ぼすことはないでしょう。しかし、人民元がドルに取って代わると信じてきた中国国内の国粋主義者にとっては、ロシアの人民元投げ売りが相当なショックとなっているようです。

崔有植(チェ・ユシク)東北アジア研究所長

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