▲写真=UTOIMAGE

 2007年に米国で「水を飲んで小便我慢大会」が行われたが、28歳の女性参加者が3時間で7.5リットルを飲んで意識を失い、数時間後に死亡した。死因は「水中毒」だった。一日の水分摂取推奨量は大人で2リットルだ。短時間に人体が耐えられないほど大量に飲めば、水も毒になることがあるのだ。

 ボツリヌストキシンは毒性が非常に強い。20ナノグラム(ng)だけで人が死ぬ。しかし、容量を1000分の1に減らせば、美容外科で顔のしわを伸ばす注射薬(ボトックス注射)として使われる。濃度によって人の役に立つこともあれば、人を殺すこともあるということだ。有害物質も安心して摂取できる許容基準値がある。水に鉛が0.01ミリグラム/リットル(mg/l)、ヒ素が0.01mg/l、水銀が0.001mg/l以下で含まれている場合は飲用水として「合格」だ。

 韓国科学技術団体総連合会は先日主催した討論会で、福島原発「汚染水」という呼称を「汚染処理水」に変えた。海洋放出基準に合致するものだという意味だ。生物学的毒性は「用量と投与時間」によって決まる。その2点を明示せずに「アスピリンを飲んだら死ぬ可能性がある」とか「水を飲んだら死ぬこともある」と言うならば、それは性急な一般化による誤りだ。今の汚染処理水に対する怪談(デマ)もそのような前提条件を無視した扇動に過ぎない。もちろん、日本が海洋放出基準を守っているかどうかは監視・検証しなければならない。

 人類は放射線被ばくに耐えながら生きてきた。日常的に食べる米・白菜・水・バナナ・牛乳・肉・魚にも放射性物質が入っている。太平洋で核実験が数百回行われた1960年代、北半球のトリチウム(三重水素)濃度は急激に増加したが、魚と人に特に問題が見つかったことはない。忠北大学のパク・イルヨン教授は「福島汚染処理水を一度に海洋放出したとしても、韓国海域に及ぼす放射性同位元素の濃度増加は、今の海や生物体内にある現存量の1万分の1から100万分の1程度で、非常に微々たる水準だ」「水産物を安心して食べても大丈夫だ」と言った。

 野党・共に民主党は不安と恐怖を利用して「ニセの危険」を浮き彫りにすることに熱中している。40年以上にわたり放射能分野を研究してきた英オックスフォード大学のウェード・アリソン名誉教授(82)が「福島汚染水に対して過度な恐怖を持つ必要はない」と言うと、同党の李在明(イ・ジェミョン)代表は「インチキ」と攻撃した。それならば、韓国科学技術団体総連合会はインチキ集団だというのだろうか。「100%安全なのか」という質問は愚問だ。そのような食品・薬品・技術は存在しないからだ。飛行機が危険性を持つことを知りながらも、私たちは搭乗する。リチウムバッテリーは爆発したこともあるが、私たちはスマートフォンを耳に当てて電話をする。

 放射性医薬品の特性と人体への影響を研究してきたパク・イルヨン教授は「福島汚染処理水を持ってきたら飲む」と言って、生放送の討論を提案した。政治家や環境団体とは科学の言語で討論できないため、科学者が立ち上がることを望んだが、3カ月間でただの1人も現れなかった。同教授は「陣営の『おり』に閉じ込められて聞かない、信じない人々がいて残念だが、科学と常識を語り続けていく」「狂牛病(牛海綿状脳症〈BSE〉)問題の時ように、多くの人々がだまされたり、利用されたりしていない点は希望がある」と語った。

 韓国政府に提案する。「汚染水」ではなく「汚染処理水」と呼ぼう。科学的意味の安全と国民が感じる安心の間に乖離(かいり)があるからだ。認識転換に役立つだろう。福島原発事故は災いだったが、韓国が損ばかりしたわけではない。原発の安全性がさらに高まり、廃炉処理などの問題に対処する間接的な経験を得た。汚染処理水の海洋放出も危機ばかりではない。見えなくて、感じることもできず、漠然とした恐怖を与える放射線と放射性物質について、きちんと理解する機会に変えることができる。

朴敦圭(パク・トンギュ)週末ニュース部長

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