ある30代の中国人が昨年2月、韓国に入国した。彼は入国直後に韓国の職場で働く父親の健康保険被扶養者として登録。脳腫瘍など計42件の診療を受けた。この治療に健康保険公団が負担した保険料は1950万ウォン(約212万円)だった。治療を終えたこの中国人は3カ月後に帰国した。

 韓国で職場に通う外国人の被扶養者として登録し、保険料の高額支給を受けて母国に帰国する、いわゆる「健康保険料の食い逃げ」が相次いでいる。8月22日、保健福祉部(日本の省庁に相当)によると、健康保険の適用を受ける外国人は2019年末の121万人から昨年末には132万人と、3年で11万人増えた。外国人の社会保険加入者の場合、妻と子どもはもちろんのこと、両親や兄弟姉妹、義父・義母まで被扶養者として加入できる。被扶養者は滞在期間や永住権のような制限を受けず、韓国人と同じ健康保険料の適用を受ける。このような規定を活用し、韓国国内で短期間「集中治療」を受けた後、出国する外国人が増えているのだ。

 ベトナム国籍の50代男性は昨年5月に韓国へ入国した。彼は入国当日、婿の被扶養者として健康保険に加入した。その後、直ちに脳梗塞症などで6件の診療を受け、1カ月後にベトナムへと戻った。健保公団の負担額は1310万ウォン(約142万円)だった。

 海外の各種インターネット・コミュニティーで検索すると、こうした韓国の健保制度の盲点を突いた「韓国健康保険活用法」などの書き込みが容易にヒットする。中国のあるサイトには「家族を(韓国の)健康保険に被扶養者として登録する方法共有」などの書き込みが掲載されていた。同書き込みには「家族のうち1人が健康保険料を支払えば、家族全員恩恵に預かれる」「1年に少なくとも数百万ウォン(数十万円)を節約できる」といった内容が盛り込まれていた。

 実際、ある中国人が1億ウォン(約1090万円)に上る健保財政を使用したこともあった。福祉部によると、ある50代の中国人男性は2020年4月に入国し、婿の被扶養者として健康保険に加入した。その後、肝臓疾患の治療などを受けた後、翌年初めに中国に帰国した。公団の負担額は9000万ウォン(約980万円)余りとなった。中国国籍の健康保険加入者は2021年基準で66万人で、全外国人の53%を占めるなど最も多い。ここ3年間、中国国籍保持者を対象とした健康保険の赤字額は1335億ウォン(約145億円)に上った。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は「外国人の社会保険加入者のうち被扶養者として7-10人を登録した人もいる。被扶養者の資格で33億ウォン(約3億6000万円)に上る健康保険料を受領した中国人がいる」とし、これを食い止めると発言した経緯がある。

 このほか、カナダ国籍の60代男性も昨年10月に入国し、被扶養者として登録した後、心臓不整脈の治療を受けて3カ月で出国した。公団負担金は1720万ウォン(約187万円)だった。昨年5月に韓国に入国した80代の米国人男性は、嫁の被扶養者として登録し、慢性腎臓病治療(公団負担金420万ウォン=約45万円)を受けて1カ月で出国した。

 一部の外国人被扶養者による「健康保険の食い逃げ」規模がどの程度のものなのかを測る正確な統計は存在しない。福祉部の関係者は「ここ3年間、外国人被扶養者が韓国に入国して6カ月以内に使用した健保財政の平均額は57億ウォン」という。この保険料が全て悪用されたとは言えないが、年間100億ウォン前後の健保財政のうち相当額が海外に流出していると推測できる。

 これを防ぐため、「国民の力」の朱豪英(チュ・ホヨン)議員と宋彦錫(ソン・オンソク)議員は、外国人被扶養者も韓国国内での滞在期間が6カ月以上でなければ健康保険の加入対象外とする国民健康保険法改正案を2021年に発議した。福祉部は与野党と話し合いを持ち、法案が速やかに可決されるよう促したものの、いまだに国会で議論されていない。同法案が可決されれば、外国人被扶養者約9800人の1年間の健康保険料の基準が強化される。福祉部の関係者は「韓国国内に居住する全外国人を対象とした健保財政は黒字」とし「一部の被扶養者が問題」と述べた。

チョ・ベッコン記者

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