▲慶尚南道統営の閑山島沖合で再現された閑山島海戦。2022年8月13日。/キム・ドンファン記者

 大国といわれる国はどんな国だろうか。今のチャンスを逃したとしても、次の機会を待つ余裕のある国だ。彼らには2回目、3回目のチャンスがある。100年、200年、1000年にわたり世界を左右してきた米国、英国、ローマの歴史にも一定の波があった。時には改革の好機を逃し、危機が深まった時代もあった。しかしそれでもこれらの国々は滅びなかった。10年後、20年後には国を立て直し、国家の寿命を延長し繁栄を続けることができた。

 それに対して小国は違う。今の危機が決定的な危機になると常に覚悟し、今のこのチャンスが最後のチャンスだと考えないと生き残ることはできない。イスラエルやシンガポールは強いが国としては小さく、1回のチャンス、1回の危機が国の運命を左右する。1970年代初頭、この両国の首相だったゴルダ・メイアとリー・クァンユーはこんな対話を交わした。メイアが「イスラエルは一瞬目を離せば地中海の東側に沈んでしまう」と語ると、リー・クァンユーは「シンガポールは南シナ海だ」と応えたという。

 大国は自分たちが望む場所と時間を選んで戦うことができるが、小さい国は相手が挑発してきた場所と時間に合わせて戦うしかない。侵略に備えるべき場所は多いが、準備できる時間は短い。イスラエルは1948年の建国直後からアラブ諸国との戦争で敗れたことのない常勝軍隊を持っていた。それが1973年10月6日にエジプトの奇襲攻撃で存亡の危機に追い込まれた。油断がその大きな原因だった。小さな国にとっておごりは毒薬のようなものだ。「自信」と「慢心」は紙一重だ。

 韓国はその長い歴史で戦う時間と場所を自ら選択したことがない。壬辰(じんしん)倭乱と丁酉(ていゆう)再乱(文禄・慶長の役)、丁卯(ていぼう)胡乱、丙子胡乱などいずれもそうだ。時間と場所の選択権が敵にある戦争は不利な戦いを強いられる。英国と米国は最盛期に相手が選択した時間と場所で戦争したことは数回しかない。英国の場合はナポレオンとの戦争と第1次・第2次世界大戦くらいだろう。最強の大国である米国も望まない場所と時間に戦ったベトナム戦争では苦戦を強いられた。米英の本土で戦いが起こったのは日本による真珠湾攻撃、ナチスによるロンドン空襲くらいしかない。

 日本の植民地に転落することで終わった朝鮮500年の歴史で国を中興させるチャンスは何回あっただろうか。賢君と言われる英祖と正祖の時代が果たしてそのチャンスだっただろうか。英明な君主だった正祖は欧州勢力の西勢東漸時代が始まる頃、中国の昔の文体を復活させることに全力を注いだ。その後はチャンスと言えるチャンスもなくただ無為に時間が過ぎた。独立の機会がほぼなくなった時代に「開化党」と「独立協会」が誕生した。

 大国と小国の間にある韓国にとって今切実に求められることは「歴史の興亡への感覚」だ。大国が1回逃したチャンスを2回目、3回目は逃さなかった理由は、その社会でこの「興亡の感覚」が失われなかったからだ。西洋人は興亡の感覚を1000年の帝国であるローマの歴史から学んでいる。欧州でフランス革命の足音が聞こえ、米国から独立戦争の知らせが伝わってきた時代に英国の歴史家エドワード・ギボンは20年かけて「ローマ帝国衰亡史」を執筆した。最初に数百部印刷されたこの本はその半分をトーマス・ジェファーソンなど植民地時代の米国の指導者が購入した。ドイツの歴史家テオドール・モムゼンはドイツ統一が近づき欧州の騒がしかった1850年代、50年の歳月を「ローマ帝国史」の執筆に投入した。

 国が混乱と危機を迎えた時代に彼らはなぜローマの歴史にそこまで執着したのだろうか。興亡に対する感性なしには危機を危機として、あるいはチャンスをチャンスとして認識できないからだ。危機に対する意識と興亡に対する感覚が鈍ってしまうと、米国や英国でさえその後何度もチャンスを逃し危機を大きくした。最強の大国である米国の足下には、過去に逃したチャンスと認識できなかった危機の代償が今も積み上げられている。中国では鄧小平と習近平の興亡の感覚の違いが「伸びる中国」と「壁にぶち当たった中国」の違いを生み出した。

 韓国も今や長く続いた小国の衣を脱ぎ、新たな運命を開拓すべき時を迎えている。今はその最後の機会だ。しかし今ここで「混乱を助長する勢力」が「混乱を抑制する勢力」に勝ってしまうと全てが無駄になる。いわば「千載一遇のチャンス」であると同時に「無間地獄の入り口」でもある。興起の機運と没落の兆しが激しく混在しているとも言えるだろう。チャンスを足蹴にして自ら危機を招き入れてしまえば、歴史の敗残兵・世界の落後兵になってしまう。政治をする人間たちよ、そうなってもよいのなら、まずあなたの目の前の鏡の中の自分の顔に唾を吐きかけよ。

姜天錫(カン・チョンソク)顧問

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