▲ロシアを訪問するため専用列車に乗り込む北朝鮮労働党の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長。見送りに出た関係者らと握手を交わしている。10日午後撮影。/朝鮮中央通信、聯合ニュース

 ロシア大統領府のペスコフ報道官は12日(現地時間)「北朝鮮とロシアの首脳会談では非常に重要な懸案も議題になるだろう」と予告した。北朝鮮との武器取引に向けた交渉を予告したものだが、国連安全保障理事会で採択された多くの決議が北朝鮮との武器取引や軍事技術の支援を全面的に禁止している。それにもかかわらず武器取引が実際に行われた場合、これは安保理を中心に行われている北朝鮮制裁が有名無実化するのはもちろん、第2次世界大戦後に構築されてきた非拡散など戦後秩序を揺るがす大きな事態になる。国連に象徴される多国間秩序に基づく国際政治が文字通り重大な岐路に立たされているのだ。

 ロシア政府は同日、北朝鮮とロシアの首脳会談について「国連安保理の事案に対するプロセスもテーマになるだろう」とコメントし、北朝鮮制裁に対抗して北朝鮮とロシアの協力が実現することも示唆した。安保理常任理事国であるロシアは2017年までは北朝鮮が核とミサイルによる挑発を行うたびに、米国中心の北朝鮮制裁決議案に賛成票を投じてきた。すると北朝鮮がこれに反発し、ロシアを「米国から執拗(しつよう)に制裁を受け続ける国」と批判したこともある。しかし昨年のウクライナ侵攻後、ロシアは北朝鮮を一方的に擁護し「北朝鮮による挑発の原因は韓米合同軍事演習」と指摘するなど、拒否権を武器に北朝鮮に対する非難や制裁に向けた話し合いを妨害してきた。

 外交関係者の間では「今回の会談では国連安保理の存立基盤が大きく揺らぎかねない」との見方も浮上している。国連安保理は国際社会の平和と安全保障の秩序を決める最も上位の国際機関であり、1946年以来、世界大戦レベルの大規模な武力衝突を効果的に抑制してきたとされている。「国際的な安全保障の公共財」とも呼ばれる安保理は問題の深刻さによっては国の主権を超える強い関与が可能であり、その重要な手段が制裁だった。ところが今回のウクライナ戦争に対しては効果的に対処できないことから機能不全に陥り、今や「安保理無用論」まで語られ始めている。梨花女子大学の朴元坤(パク・ウォンゴン)教授は「北朝鮮の核問題関連で複数の決議案が採択され、これらは国際法としての効力が発生しているが、かつてこれに賛成した常任理事国が自らこれを崩壊させるのは自己否定とも言えるものであり、まさに致命的だ」と指摘する。北朝鮮はロシアという「後ろ盾」を利用して制裁をかわし、核開発に成功して今や武器取引まで行っているが、これがアジアやアフリカなどの権威主義政権にとってあしき前例になるとの懸念もある。

 韓国外交部(省に相当)の朴振(パク・チン)長官は記者団の取材に「(韓国)政府としての対応策を検討している」と述べ、独自制裁に乗り出す可能性を示唆した。韓国外交部のイム・スソク報道官も「ロシアと北朝鮮は国連安保理決議、そして制裁対象となる武器取引、さらに軍事協力禁止の義務を思い起こすべきだ」「国際社会の平和と安定を害する北朝鮮とは軍事協力を行うべきでない」と要求した。武器取引が行われた場合、北朝鮮はロシアによるウクライナ侵攻を支援する形となるため、韓国外交部に対して「欧州各国と連携して『共同戦線』を構築すべきだ」と要求する声もある。NATO(北大西洋条約機構)は米政府系ラジオ「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」を通じ「北朝鮮に武器支援を要請したこと自体がロシアの国際的な孤立と判断ミスを示すものだ」との見方を示した。

 米ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)報道官は11日(現地時間)に声明を発表し、その中で「ロシアに対して武器の提供も販売もしないとする約束を北朝鮮は順守せよ」と要求した。米国務省のマシュー・ミラー報道官は「米国は北朝鮮に新たな制裁を科すことをためらわない」と述べた。米議会上院人権コーカス(非公式会議)共同議長でバイデン大統領の側近でもあるクリス・クーンズ議員は北朝鮮とロシアの武器取引について「悪魔の取引」と非難している。日本政府も金正恩総書記のロシア訪問について「懸念し鋭意注視している」とコメントした。ただその一方で「核心技術の移転は簡単ではない」との見方もある。峨山政策研究院の梁旭(ヤン·ウク)研究委員はSBSのラジオ番組に出演した際「ロシアは武器を売却する場合、常にその性能を下げてから売る」「たとえロシアが孤立しているとしても、旧ソ連の時代から同盟国や周辺国に核心技術を提供した前例はない」と説明した。

金隠仲(キム・ウンジュン)記者、ワシントン=イ・ミンソク特派員

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