▲断食19日目となった18日午前、共に民主党の李在明代表はソウル市中浪区の緑色病院に搬送された/NEWSIS

 今年6月19日、韓国野党・共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表は国会で演説した。終わりに差しかかると、事前の原稿になかった発言が飛び出した。

 「李在明逮捕同意案で民主党の対立と分裂を狙っている。その口実さえ与えない。彼らの試みを容認しない。不逮捕の権利を放棄する」

 民主党の議席から控えめな拍手が沸き起こった。繊細に事前調整された「決断の瞬間」だった。その場面が映ったユーチューブ映像には「えっ、不逮捕権利放棄」「素晴らしい、李在明」「本当に涙が出る」といったコメントがついた。鄭清来(チョン・チョンレ)最高委員はソーシャルメディアに「私は止めたが、代表の意志があまりに強かった」と書いた。野党寄りのメディアは「李在明、不逮捕特権放棄で勝負の一手 リーダーシップ危機正面突破」という見出しを掲げた。

 与党国民の力の院内広報は「本気なのかショーなのか見守る」と論評した。今回は約束を守るかどうか疑わしいという趣旨だった。李在明代表は不逮捕特権廃止の大統領選公約を一度覆した前例がある。国会演説で2度目の約束まで覆すとは想像もできなかった。一方、李在明代表が本当に刑務所に行く決心をしたのかどうかも気になった。大統領選落選直後、補選に続き、党代表選挙に出馬するという常識外れの選択をしたのは、司法処理を何とか避けようとする抵抗と映ったためだ。

 李在明代表の断食と入院を見守りながら、その疑問が解けた。18日令状請求、19日大統領裁可、20日本会議報告、21日表決というスケジュールはかなり前に決まったという。それを逃すと、秋夕(中秋節)の長期連休を迎え、本会議の日程が10月末まで延期されることになる。李代表側もそのスケジュールを熟知していた。先週末から救急車がハンスト場所に出入りしてムードづくりを行い、18日早朝に「強制入院」の手順を踏んだ。そうすることで、予定されていた令状請求を「非情な政権による残忍な仕打ち」にすることに成功した。

 李在明代表の熱狂的支持者が逮捕同意案否決を迫る携帯メールを拡散すると、李在明派の議員は忠誠を誓う返事で答えた。事務総長は「可決票を投じる議員を徹底追跡し、探し出して政治的生命を絶つ」と脅迫した。沈黙していた李代表も最後の瞬間、「検察独裁を国会前で止めてほしい」として否決を訴えた。李在明代表は全て計画していたのだ。

 李在明代表は福島汚染処理水の放出を「太平洋戦争」と呼んだ。日本が銃と刀の代わりに「海洋汚染」で人類を殺戮(さつりく)すると言った。水産物を食べると命が危ないという警告だ。民主党議員らは「セシウムクロソイ、お前が食べろ」 「いっそ○○(大便の卑語)を食べる」と同調した。800万人のフォロワーを持つグルメユーチューバーが空気を読まずにズワイガニを食べる動画をアップして責められた。野党支持のネットユーザーから「この時期に何も考えず水産物か?」「(大統領選で)2番(尹錫悦=ユン・ソンニョル)に入れたやつか」などというコメントで攻撃を受けた。

 李代表と民主党の人々は、どの時点でどんな言い訳をして水産物を食べ始めるのか気になった。少なくとも当分は自宅で家族とこっそり食べるだろうし、人目がある場所での外食は避けると推測した。ところが汚染水の放出が始まって1週間たったある日、糾弾集会に先立ち、刺身屋で会食をしたという。李代表は「本当においしかった」という文字とともにサインを残して店を出た。ズワイガニを食べたことを非難した人が今度は「汚染水を批判することと水産物を食べることに何の関係があるのか」と李代表をかばった。「禁酒キャンペーンをしながら酒を飲むことが問題なのか」と言い張るのと同じだ。

 「言行」という単語があるのは、発言と行動は一体だからだ。自分が吐いた言葉に反して行動するには、苦しい言い訳が必要になる。李在明代表は違う。 一言も弁解せずに堂々としている。なぜ発言と違うのかと尋ねると「その言葉が本気だと思ったのか」と返す。言葉の聞き方を分かっていないと叱られるわけだ。「尊敬する朴槿恵(パク・クンヘ)大統領」という自身の発言が論議を呼ぶと、「本当に尊敬していると思われるなんて」と釈明した。自由な意思表示のために党に「議員を公に批判するプラットフォーム」を作るという計画が批判を受けた際には「面白くしようと思い言ったことで針小棒大だ」と発言を覆した。李代表に「不逮捕特権を放棄するという国会演説はどうなるのか」「海が放射能に汚染されたというのに水産物をなぜ食べたのか」と聞きたい。そうしたら「本気だと思ったのか」とくすくす笑われるのではないかと思うと恐ろしい。

金昌均(キム・チャンギュン)記者

ホーム TOP