「ここは何かの山なんですか?」

 「そうですね…孤立無援を表現してるみたいです」

 9月18日午前、ソウル市鍾路区寛勲洞のナム・アートギャラリーを訪れた二人の男性が、こんな対話を交わしながら品評をしていた。ここでは「チョ・グク元法相」をテーマにした「作品」が展示中だ。9月13日から開催中の「時間、散策展」。本人が書いた『チョ・グクの時間』と『法古典散策』から1語ずつ取って名付けたこの展示会は、ちょうど前日の17日にチョ元法相自身も足を運んだ。

 チョ元法相が訪れた翌日、ここを訪ねてみた。5階建てのビル2棟がギャラリーとして運営されており、このイベントは4階で開かれていた。ギャラリーの入り口には芳名録が2部置いてあった。「『あの方』に伝えたい言葉を書いてください」という案内が付してあった。数えてみると、およそ90人がメッセージを残していた。「応援しています」「愛しています」「がんばってください」といった内容がほとんどだった。

 展示場に入ると、20坪(約66平方メートル)ほどの空間の四方に、チョ元法相を題材にした絵画およそ30点が掲示されていた。

 ざっと見て回ったところ、どこかで見たような絵が多いような印象を受けた。

 確認した結果、既視感を覚えた絵は、チョ元法相が既にフェイスブックのプロフィル写真としてアップしていたものだった。平日午前中ということで訪れていた人は3人だけだったが、このとき、自分は「1日見張り当番」だという女性が言葉をかけてきた。「来てくださってありがとうございます。ゆっくり見ていってください」

 鑑賞者の動線上に最初に現れる作品は、アーティストのイ・ジョンホンが描いた「手」というタイトルの絵だ。

 今年6月10日にチョ元法相と文在寅(ムン・ジェイン)前大統領が慶尚南道梁山市平山で対面し、手をつないで「記念撮影」したものを絵にしたのだ。アーティストは、作品解説で「二人が手をつなぎました。それでいいんです。それ以上、言葉は足さなくてもいいんです」と表明した。

 チョ元法相の家族が登場する作品もあった。

 彼の妻の鄭慶心(チョン・ギョンシム)氏、娘のチョ・ミン氏、息子のチョ・ウォン氏が一緒に食卓で食事をする様子や、チョ・ミン氏一人を画幅に収めた作品もあった。娘が愛犬を抱っこしている写真を基にしたペン画もあったが、この作品を手掛けたアーティストのイム・デニは「資料(写真)が立派であれば、逆に絵はやり難くなる。ある青年の忙中閑」と語った。

 展示会のコースの中で「メインメニュー」と思われるものは、パク・ソンワンの「エレベーター」というタイトルの作品だった。

 イベントを紹介するパンフレットにもプリントされた絵画で、いわゆる「ケーキを持つチョ・グクの後ろ姿」として広く知られている写真をキャンバスに油彩で表現したものだ。「チョ・グク問題」の真っ最中だった2019年9月25日、当時まだ現役の法相だったチョ・グク長官の帰宅姿を撮影した写真だ。娘の誕生日から1日たった次の日にケーキを持っている様子を、ソウル市方背洞のマンションのエレベーター前で撮ったものだった。

 この写真を、チョ・グク元法相の支持者らはモノクロの絵にしてばらまき、いわゆる「チョ・グク守護集会」用のTシャツの柄や旗にもした。チョ元法相自身、その絵を自分のフェイスブックのプロフィル欄に一時アップロードしたが、すぐに取り下げるという一幕もあった。

 主催者側は、この写真のチョ元法相を等身大にして「ケーキの箱を持って一緒に写真を撮ってみましょう」と、フォトゾーンまで設置した。写真撮影のアクセサリーとして使えと、ピンク色のケーキの箱まで備え付けてあった。前日にここを訪れたチョ元法相当人も、この等身大写真の隣で記念撮影をした。

 「顔のない人」という作品もある。実際に目・鼻・口を省略した白いのっぺりした顔に、チョ元法相の特徴である髪型を併せて描いたものだ。

 そのすぐ横には「ろうそくの十字架」を形象化した作品も並べてあった。作品解説文は「その全てに堪えつつ正しい道を進む人、彼はまさにわれらの時代のキリスト」だった。

 1日見張り当番の女性に「この絵、売ることもしてるんですか」と尋ねてみたら「販売してはいるが、価格はアーティストに伺ってみないといけない」という答えが返ってきた。展示会に作品を3点出品したあるアーティストは、これを聞くと「私の作品を買って」と言い、1点につき150万ウォン(現在のレートで約16万7000円。以下同じ)の値を付けた。

 展示会の主催者側は、パンフレットのほか、別の物も配っていた。放射能マークに「フクシマ原発汚染水」という文言を記したステッカーとバッジも、無料で配布した。

 空色の背景に「ケーキを持つチョ・グク」のイメージが描かれている「図録」は有料だった。高額な作品の代わりにこの図録でも記念品として持っていこう、と思った。「クレジットカードいいですか?」。1日見張り当番の女性がイベントの主管者側に電話をかけて尋ねてみたが、すぐに電話を切って、こう答えた。「カードは駄目なんです。現金か、口座振り込みなら大丈夫です」。2万ウォン(約2200円)を振り込んだ。この展示会は9月27日まで開かれている。

キム・ミョンジン記者

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