▲金大業氏(左)と申鶴林元言論労組委員長

 2002年の韓国大統領選は捏造(ねつぞう)された虚構が選挙戦を覆す可能性があることを実証した事例だった。詐欺師・金大業(キム・デオプ)による虚偽暴露で支持率1位を走っていた李会昌(イ・フェチャン)候補が致命傷を負い、僅差で敗北した。裁判所は兵役疑惑の影響で低下した李会昌氏の支持率損害が最大で11.8ポイントに達すると判示した。実際の得票率差は2.3ポイントだったので、フェイクニュースがなければ、第16代大統領は盧武鉉(ノ・ムヒョン)ではなかったかもしれない。

 さらに驚くべきことは、あきれた詐欺劇の首謀者たちがそれ相応の断罪を回避した事実だった。金大業が受けた処罰は懲役1年9月にすぎなかった。民主主義の選挙制度をないがしろにした罪にしては軽すぎた。虚偽事実を集中的に拡散した公共放送の責任者も内部懲戒さえ受けなかった。金大業に便乗して政権延命に成功した民主党は、何事もなかったかのように口をつぐんだ。正常な政党なら自主的に議会を解散すべきところだが、形だけでも申し訳ないという一言はなかった。党の広報担当として攻撃の先頭に立った李洛淵(イ・ナギョン)、金大業を「勇敢な市民」と称えた秋美愛(チュ・ミエ)など「兵風疑惑」の主役たちは勢いよく出世街道をひた走った。

 陰謀で世間をひっくり返すうそ工作の発案者たちは自信がついたようだ。後で発覚しても不利益を受けないため、気兼ねはなくなったはずだ。その後も事あるたびにあらゆるジャンルの陰謀論が登場し、国を揺るがした。しかし、これまで首謀者が重罰を受けることも、社会から葬り去られることもなかった。

 金大業のおかげで政権が5年ぶりに交代すると、直ちに「狂牛病工作」が始まった。ろうそく騒動の導火線となったMBC「PD手帳」は意図的な歪曲(わいきょく)放送だった。放送作家が「李明博(イ・ミョンバク)に対する敵意が天を突く時」に「政権の命脈を断つ仕事」を成し遂げたと告白するほど政治的論理に汚染された報道だったが、製作陣は全員無罪判決を受けた。数カ月間の都心デモを主導して巨額の損失を招いた「狂牛病対策会議」も何の責任も負わなかった。「対策会議」を構成した数百の団体は、天安、終末高高度防衛ミサイル(THAAD)、セウォル号から楊平高速道路、福島原発に至るまで機会があるたびに看板だけを取り替えて現れ、デマだらけの扇動を続けてきた。

 うそを根絶する最も確実な方法は、うそを作って広めた人物を罰することだ。法律に違反したならば最大限重い刑を下すべきであり、刑事罰が難しいならば社会的評価を落とし、公の場から追放しなければならない。政治家ならば選挙を通じて処罰するという「必罰の慣行」を確立すべきだ。しかし、これほど多くの陰謀論が横行しても、工作の主役たちが不利益を受けた事例は見当たらない。

 2010年に韓国海軍の軍艦「天安」が沈没すると、民主党は陰謀論専門家のシン・サンチョルを調査委員に推薦し、「米軍介入説」と「イスラエル潜水艦衝突説」まで流布した。それでも責任は負わなかった。天安艦沈没が北朝鮮の仕業ではない可能性があるという趣旨で発言した薛勲(ソル・フン)は4選を果たし、「尹錫悦(ユン・ソンニョル)弾劾」を叫んでいる。「疲労破壊・座礁」デマに言及した姜琪正(カン・ギジョン)は光州市長に当選し、中国軍や北朝鮮軍の軍歌を作曲した鄭律成(チョン・ユルソン)の偶像化事業で先頭に立っている。

 慶尚北道星州郡のTHAAD基地の前で踊りながら「電磁波デマソング」を歌った朴柱民(パク・チュミン)、蘇秉勲(ソ・ビョンフン)、金漢正(キム・ハンジョン)の各議員、女優ユン・ジオの虚言を「正義の戦い」と称え、彼女を守る議員グループまで結成した南仁順(ナム・インスン)、李学永(イ・ハクヨン)、鄭春淑(チョン・チュンスク)の各議員、崔順実(チェ・スンシル)事件の際、「朴正熙(パク・チョンヒ)統治資金300兆ウォン」「チョン・ユラは朴槿恵(パク・クンヘ)の娘」などといった放言祭りで有名になった安敏錫(アン・ミンソク)議員なども当選を繰り返し、依然として議員バッジを着けている。最近フェイクニュース界の新星になった金宜謙(キム・ウィギョム)議員は「清潭洞酒席」デマが空振りに終わった後も活躍している。

 「セウォル号故意沈没説」から「呉世勲(オ・セフン)センテタン」までデマというデマに必ず登場する金於俊(キム・オジュン)はユーチューブでフォロワー135万人を従え、依然として強大な影響力を誇示している。所業を恥じてひっそりと暮らすべき人々が豊かに暮らしている。こうした陰謀論に便乗して政治的利益を得てきた政党が第一野党として君臨していることからして正常な状況ではない。

 昨年の大統領選直前に流れた「尹錫悦コーヒー」のフェイクニュースは、20年前の金大業事件のそっくりだ。20年たっても同じ選挙工作が繰り返されるのは、韓国社会がうその常習犯を追放する自浄能力を失ったことを意味する。金大業を「義人」と称賛した政党、狂牛病、天安、セウォル号、THAADのデマに便乗し、世間を惑わした政治家や扇動家に相応の責任を問うていたならば、フェイクニュースで選挙戦に揺さぶりをかけようとする民主主義破壊工作が試みられることはなかっただろう。うそつき勢力を懲らしめることができない国では次の選挙でどんな危うい出来事が起こるか分からない。

朴正薫(パク・チョンフン)論説室長

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