2017年12月15日、 カナダ・マクマスター大学歴史学科の宋在倫(ソン・ジェユン)教授=54=は大きなショックに見舞われた。中国を訪問した韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領=当時=が、北京大学における演説で中国を「高い山の峰」になぞらえつつ「韓国は小さな国だが、中国の夢に共にありたい」と語るのをリアルタイムで見ていたからだ。「やたら過度に恭しくしているだけでなく、『中国の夢』についての暗黒のごとき無知をあらわにするもの」だと彼は語った。

 「習近平が語る『中国の夢』とは何でしょうか。『中華民族の偉大な復興』です。中国優先主義、人権弾圧、覇権主義が盛り込まれた論理です。韓国の大統領が、韓国を率いてここに共にありたいと? どうして大統領府や外交部(省に相当)は、そういう非常識な発言が大統領の演説原稿に入るのを放置できたんでしょうか?」。まさにその前日、韓国記者団が中国側の警護員に暴行されるという事態が起きたが、カナダ在住韓国人の一人が「やられて当然だった」と言うのを聞き、あらためて驚いたという。

 悩んだ末に、現代中国の歴史を韓国語で書き、読者に伝えなければならないという結論に達した。それが『悲しき中国』3部作だ。2020年の第1部『人民民主独裁:1948-1964』、2022年の第2部『文化大反乱:1964-1976』に続き、このほど第3部『大陸の自由人たち:1976-現在』が出版された。6年を経ての刊行だ。高麗大学哲学科を卒業した宋教授は、ハーバード大学で博士号を取り、現在の職にある。

 第3部は、毛沢東の死後、中国政府は経済成長を成し遂げて和解を叫んでいるが、依然として中国内外で自由を叫ぶ人民の抵抗が止まらない-という内容だ。「総力戦」という美名の下に展開された最近3年間の全体主義的防疫政策の実態も記録した。

 タイトルの「悲しき」とはどういう意味か? ソーシャルメディアを通したインタビューで宋教授は「中国現代史が残酷かつ凶暴なものだったから」と語った。「1950年代前半の政治闘争で少なくとも100万人、最大500万人が『人民の敵』として追い詰められ、処刑されました。58-62年の大飢饉(ききん)では、3000万から4500万人が腹をすかせ、殴られながら重労働に苦しみ、死んでいかねばなりませんでした。66年から76年までの文化大革命の過程では1億1000万人が政治的打撃を受け、数百万人が命を落としました」

 これは「過去の事件」にはとどまらない、と宋教授は語った。ちょうど昨年、中国では1億人以上が数カ月にわたって拘禁される、いわゆる「大陸封鎖令」の残酷な光景が展開した。ソウルと京畿道の全人口に近い上海一帯の2600万人が、習近平1人の命令によって5カ月以上も家から出られず、それがまさに「いまの中国」だという。「もし韓国政府が首都圏の人口を封鎖したら、すぐに政権が変わるのではありませんか?」

 宋教授は、こんにちの中国の実体を冷静に見るべきだと語った。「人口14億の個々人の生体情報をビッグデータとして集積し、国内全域に監視カメラを配して人民の一挙手一投足を監視する国」だという。「表現の自由や思想の自由はもちろん、信教や居住・移転の自由も満足に保証されません。共産党独裁を批判する知識人は結局、耐えられずに政治的亡命をするか、口を閉ざすしかありません」

 しかし宋教授が見るに、あまりに多くの韓国人が中国に対して誤った幻想を抱いている。甚だしい例では、「いずれ米国を打ち破って新たな世界秩序を構築するだろう」という見方まで出ている。「こうした韓国知識人らの親中傾向は、根深い反西欧主義と反米意識、社会主義傾向、伝統的慕華思想の影響だといえます。一党独裁を超えて一人独裁へと進むこんにちの中国を作ったのは、1949年以来の中国の暗い現代史ですが、これを理念的に美化し、政治的に称賛してよいのでしょうか」

 宋教授が見るに、今の中国には世界を説得し得る普遍的理念を創出する能力、意思、論理がない。「今の習近平政権は毛沢東政権の復活であって、理性のまひ、独断的な時代錯誤、狂気の大逆進が繰り広げられている」という。最近のコロナ・パンデミックは、中国という全体主義国が世界にとってどれほど大きな脅威となっているかを悟らせる、決定的な契機だった。宋教授は「この先、退屈な新冷戦の持久戦が続く可能性が高いが、その点故に中国の不合理な体制について冷徹な批判が必要」と語った。

兪碩在(ユ・ソクチェ)記者

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