毛沢東の大躍進運動では、4000万人が餓死した。「鉄鋼業を興して一気に英米に追い付く」という幻想に基盤を置いた政策が禍根だった。粗悪な高炉に用いる木を伐採したことで土地が荒廃した。数千万人が飢えているにもかかわらず、共産党幹部は「食料に問題はない」という統計を作って宣伝した。中国を災厄に陥れたのは「幻想に基づいた政策」に「統計操作」が重なったからだ。

 前から見た平壌の高層マンションは素晴らしい。だが裏から見ると、塗装もなく、ガラス窓もない。ある外国人が労働党幹部に尋ねたら「先生はネクタイを後ろにも着けますか」という答えが返ってきたという。建物の前面だけを飾ることに何も問題はない、という詭弁(きべん)だ。自由民主諸国において、権力のうそとフェイク扇動は犯罪も同然だ。しかし共産全体主義では、目的を実現するための最も効果的な手段に過ぎない。

 韓国国内の左派学生運動出身勢力も、「大きな正義」のためならば「小さなうそ」くらいは大したことではない、という様子を見せてきた。文在寅(ムン・ジェイン)政権の不動産価格、所得・分配・雇用に関する統計操作が代表的だ。馬車が馬を引っ張るような「所得主導成長」政策は、幻想に基づくものだ。所得・分配・雇用がどれも悪化すると、これを隠すために偽の統計を作った。大躍進運動で餓死者が出ているのに「食料に問題はない」という統計を作ったのと何が違うのか。「自信がある」と言っていた不動産価格が跳ね上がると、公務員をねじ伏せて「比較的安定」という虚構を創造した。全ての国民が不動産暴騰の苦痛を体感したにもかかわらず、いまだに「操作はなかった」と言っている。

 このほど監査院は、2020年に西海で行方不明になった公務員を、当時の政権が根拠もなく「自主越北者」と決め付けたという内容の監査報告書を採択した。文政権が任命した監査委員の大多数も「越北決め付け」の結論に同意したという。ところが文政権の関係者らは、西海公務員事件の情報を削除したことについて「削除ではなく情報流通網の整備」だと言い張った。自ら北に渡ったのではないという証拠を無くしておいて、「流通網整備」という詭弁を言えるのか。2017年の「THAAD(高高度防衛ミサイル)3不」の約束で中国に軍事主権を渡した事件の黒幕も監査院が探しており、間もなく結果が出るだろう。

 前政権のうそと扇動が一つずつ、その実体をあらわにしつつある。ところが2018年の南北首脳会談を巡る疑惑は、依然としてベールの中だ。同年の9・19南北軍事合意の直後、当時の文大統領は「北朝鮮は一貫して西海NLL(北方限界線)を認めた」と表明した。しかし交渉の文書を見ると北朝鮮は、自分たちが一方的に設定した「警備界線」にこだわっていたことが明らかになった。これは氷山の一角だ。

 文大統領が板門店の徒歩橋で金正恩(キム・ジョンウン)と、陪席者なしで44分間対話を交わした際、「発電所問題…」と話している口の動きがキャッチされた。その後、産業部(省に相当)は北朝鮮に原発を建ててやる案についての検討ファイルを多数作ったが、監査院が月城原発の監査に入る直前、これらのファイルを違法に削除した。2018年3月に韓国の芸術団が平壌へ向かったとき、文政権が初めて飛ばしたチャーター機はイースター航空だった。イースター創業者の李相稷(イ・サンジク)元議員は、文大統領の娘一家の海外移住を支援した。前政権の国家情報院(韓国の情報機関)関係者は「金正恩答礼訪韓に備えて東海岸方面に別荘を準備したらしい」と語った。何より、第1次、第2次南北首脳会談に関与した人物が「北がただで首脳会談などに応じたことは一度もない」とし、「文・前大統領の平壌・綾羅島演説を何の代価もなくプレゼントしただろうか」と指摘している。

 文政権は「金正恩の非核化の意志」「対話で国を守る」「平和が来た」という幻想を基にした安全保障政策を押し付けた。明らかにすべき「文政権のうそ」の最後は、南北首脳会談だろう。

アン・ヨンヒョン社会政策部長

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

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