▲李在鎔・サムスン電子会長が22日、ベトナム・ハノイ郊外のサムスンディスプレイ現地法人を訪問し、工場内をチェックしている/同社提供

 「A氏の経歴や以前の給与水準などからみて、中国の零細業者に本当に就職したのか疑わしく、それまでの経歴と関係のない会社に就職した理由も納得できない」

 サムスンディスプレイが昨年退社したA氏を相手取り起こした転職禁止の仮処分申し立てが裁判所で最近認められた。A氏は2008年にサムスンディスプレイに入社後、2012年から有機発光ダイオード(OLED)生産のための工程開発業務グループ長として勤め、昨年1月に退社した。会社はA氏と2年間の転職禁止条項などを盛り込んだ誓約書を交わし、約定金として約8700万ウォン(約961万円)を支給した。

 ところが、A氏が昨年8月、中国のある小型医療用レーザー治療機器メーカーに就職すると、会社側がそれを問題視した。資本金1000万元(約2億1000万円)、従業員数7人にすぎない零細企業で、サムスンディスプレイのライバル会社とは言えない。しかしサムスンディスプレイ側は「う回就職」だと主張し、裁判所もその可能性があると判断した。退社後すぐにライバル会社に就職していなくても契約による転職禁止が有効だとした。

 先端技術を巡る国家間競争が激しくなる中、韓国の政府・国会は産業技術流出犯罪を厳しく処罰するための関連法と制度を整備している。それに伴い、裁判所の判決もますます技術保護主義の色彩が強まっている。会社と退職者が結んだ転職禁止契約についてはう回就職の可能性があるか、これまではライバル企業と見なしていなかった企業への転職であっても効力を認める判決が出ている。

■後発企業にも転職禁止… 裁判所が速やかに効力認定

  ソウル中央地裁は今年6月、サムスン電子が米マイクロンに転職した元研究員B氏の転職禁止を求める仮処分申し立てを認めた。B氏は1998年に入社した後、24年間にわたりDRAM設計業務を担当した。 2018年からは核心技術情報へのアクセス権限も与えられた。昨年4月に退社した後、米マイクロンの日本支社に入社し、今年4月からは米国本社で働いている。

 裁判所によると、サムスン電子はB氏に特別インセンティブと1~2年の年俸に該当する転職禁止約定金支給を提案したが、B氏は断った。B氏は代価を受け取っていないなどの理由で転職禁止約定は無効だと主張したが、裁判所は認めなかった。裁判所は「DRAM技術は国家核心技術であるため、職業選択の自由を一部制限しても公共の利益がある」とし、2年間の転職禁止が妥当だと判断した。

 この判決に対し、法務法人ファウパートナーの弁護士の李光旭(イ・グァンウク)弁護士は「サムスン電子やSKハイニックスが業界3位のマイクロンに転職する場合、仮処分を申し立てることはあまりなかったと聞いているが、今は後発業者だとしても市場を奪われる恐れがあれば、敏感にとらえているようだ」とし「裁判所も国外送達(裁判所が利害関係者に書面を送る形式的行為)を非常に迅速に行い、決定も比較的早く下した」と話した。

■技術流出防ぐ法・制度の変化、判決にも影響

 法曹界は裁判所が国外への技術流出の恐れがある転職や営業秘密侵害に関連する判決を下す場合、以前より技術保護主義的に判断する傾向が見られると指摘する。これは韓国の政府と国会が技術流出を敏感にとらえ、厳しく処罰するための法・制度改善案を示しているためだ。法が強化されたことで、それが自ずと判決にも反映されていることになる。

 例えば、裁判所が特定技術や情報について、営業秘密と認定する範囲が広くなった。不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律(不正競争防止法)によれば、営業秘密に該当する要件の一つとして「秘密管理性」の有無がある。つまり当該技術や情報を秘密にするために努力したかどうかだ。 1991年の同法施行当時には「相当な努力によって秘密として維持されなければならない」としたが、2015年には「合理的努力によって秘密として維持された」に緩和され、18年には「合理的努力によって」が削除された。

 ソウル地裁知識で財産専担部長判事を務め、現在は法務法人太平洋に所属する廉皓ジュン(ヨム・ホジュン)弁護士は「不正競争防止法に続き産業技術保護法が制定され、国外に国家核心技術を流出させた場合、加重処罰する規定ができ、産業界でも内部制度の整備が進んだ」とし、「自主的にフォレンジックなどを通じ、技術、営業秘密が流出したかどうか確認することができ、証拠確保が容易になった側面もある」と話した。

 こうした判例の傾向は今後さらに明確になりそうだ。政府が国家核心技術の範囲を拡大しており、技術の国外流出を防ぐための新しい法制度を相次いで導入しているためだ。 国家核心技術は半導体、自動車、二次電池など韓国の主力産業関連技術であり、海外に流出すれば、国家的な打撃を受けかねない。産業通商資源部がこれまでに告示した国家核心技術は73件だ。

 今年6月に可決された国家先端戦略産業競争力強化および保護に関する特別措置法施行令によれば、政府は国家核心技術を持つ人々を専門人材として指定することができ、企業は彼らと国外離職を制限する契約を締結することができる。契約内容に「転職および起業関連情報の提供」が含まれる点が既存の転職禁止約定と異なる点だ。退社後どこに移るのかを明らかにする義務を追加したのだ。

 大検察庁は技術流出犯罪の量刑基準を新たに定める作業を進めている。産業技術保護法では国家核心技術を海外に流出した場合、3年以上の懲役と15億ウォン以下の罰金を科すことができる。しかし、量刑は国外流出で懲役1年~3年6月であり、加重処罰でも最長6年だ。初犯が多く、被害規模の算定が難しいためだ。

イ・ホンスン記者

ホーム TOP