尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領のサウジアラビア国賓訪問最終日の24日(現地時間)、サウジアラビアの実権を握るムハンマド・ビン・サルマン皇太子が尹大統領の宿泊先(サウジアラビア迎賓館)にやって来た。未来投資イニシアチブフォーラム(FII)出席のため準備中だった尹大統領に会うためだった。予定になかったサプライズ訪問だ。両首脳は23分間にわたり通訳だけを交えて対話した。直後にムハンマド皇太子はベンツの助手席に尹大統領を乗せ、自ら運転してフォーラムの会場まで連れていった。ムハンマド皇太子は車で移動中、尹大統領に「次に来る時はサウジアラビアで生産中の現代自動車の電気自動車に一緒に乗りたい」と声をかけたという。

 ムハンマド皇太子による今回のような特別な歓迎はめったに見られない。そのためサウジアラビアの核心協力パートナーの中心が韓国に移りつつあるとの見方が外交関係者の間で語られはじめた。サウジアラビアにとって東北アジアの重要な協力国はかつては日本だった。油が一滴も出ない日本も韓国と同じ立場で、石油輸出国のサウジアラビアにとって日本は韓国以上に大きな顧客だ。しかしムハンマド皇太子は昨年11月に来韓した際、ソウル漢南洞の大統領官邸で尹大統領と2時間にわたり共に過ごした後、日本訪問のスケジュールをキャンセルして帰国した。ある外交関係者は「ハイテク製造業の技術力は日本も強大だが、韓国は砂漠で工事の期限を守る建設分野での競争力や強大な防衛産業の力を持つ。そのため韓国はサウジアラビアにとって経済と安全保障のどちらの需要も満たすパートナーだ」と述べた。日本でさまざまな制約のある防衛産業が韓国にとっては強みとなっているのだ。

 「ミスター・エブリシング(Mr. Everything)」とも呼ばれるムハンマド皇太子は通常の国の首脳クラスでは簡単に会えないため、外交関係者の間では「隠遁(いんとん)の君主」と呼ばれている。そのムハンマド皇太子による破格の歓迎の背景には、韓国に対する厚い信頼があるようだ。韓国大統領室関係者が説明した。両国の経済協力は1973年に三換企業がアルウラ-ハイバル高速道路建設事業を受注した時から始まったが、その後積み上げられた信頼がサウジアラビアのトップに確実に認識されているのだ。その間に両国が置かれた状況や国の戦略にも変化があった。1970年代の中東ブームで稼いだ外貨を圧縮成長の呼び水とした韓国は、今や建設分野はもちろん半導体や電気自動車などハイテク製造業の技術やデジタル分野で先進国となっている。その韓国の発展モデルにムハンマド皇太子が注目しているのだ。

 サウジアラビアは10年以上前まで韓国を「道路と橋を工期に合わせて完成させる国」程度の認識しかなかったというのが外交専門家の話だ。実際、隣国のアラブ首長国連邦(UAE)が2009年12月に韓国に約20兆ウォン(約2兆2000億円)規模のバラカ原発建設を任せた時、サウジアラビア王室はUAE王室に「韓国の技術を信じられるのか」と懐疑的な反応を示したという。当時の政府関係者の話だ。ところがその後も韓国の技術力を見守ってきたUAE王室は「韓国は違う」とサウジアラビア王室に紹介したという。ある韓国政府高官は「サウジアラビアの石油関係者が国際原油価格の上がるたびに韓国に連絡し、『申し訳ない』と了解をもとめてくる。これは過去にはなかったことだ」と述べた。

 サウジアラビアとUAEは数十年にわたり友好関係を維持している。しかし両国は中東や世界の石油市場ではライバルでもあるため、両国のライバル関係がサウジアラビアを韓国に引きつけているとの見方もある。尹大統領のサウジアラビア国賓訪問も今年1月のUAE訪問後、サウジアラビアからの強い要請があって実現したという。

ホーム TOP