▲映画『私はチョソンサラムです』の広報ポスター。/写真=M&CF

 文在寅(ムン・ジェイン)政権時代に文化体育観光部(省に相当。以下同じ)傘下の映画振興委員会(映振委)が、反国家団体を擁護する映画に国費を支援していたことが判明した。反国家団体の関係者らと接触する場合には必ず統一部に申告しなければならないのに、そのドキュメンタリー映画の監督や撮影監督もまた、製作過程でこうした規定を順守しなかったことが発覚した。

 韓国の保守系与党「国民の力」に所属するペ・ヒョンジン議員が17日に明らかにしたところによると、2021年に映画『私はチョソンサラムです』封切り支援として国費4000万ウォン(現在のレートで約440万円。以下同じ)、22年に映画『差別』支援として国費3200万ウォン(約350万円)を支出した。北朝鮮と朝鮮総連(在日本朝鮮人総連合会)傘下の機関を擁護する映画のために、7200万ウォン(約790万円)が費やされたのだ。

 『私はチョソンサラムです』の製作陣が映振委に提出した交付金申請書類によると、この映画は在日朝鮮人76年の歴史を題材にしたドキュメンタリーだと紹介されている。しかし内容の展開と登場人物を見ると、北朝鮮の体制を擁護する映像作品に近い。

 『私はチョソンサラムです』には、康宗憲(カン・ジョンホン)氏や李哲(イ・チョル)氏、金昌五(キム・チャンオ)氏などが主要人物として登場する。康氏と李氏は1975年の在日同胞留学生スパイ団事件に連座してスパイ容疑で起訴され、死刑判決を受けたが、13年におよぶ獄中生活を経て仮釈放を受けた(2015年、大法院〈最高裁に相当〉で無罪)。その後、康宗憲氏は利敵団体である祖国統一汎(はん)民族連合の海外本部事務次長を経て、2013年に統合進歩党の李石基(イ・ソクキ)議員が内乱陰謀の容疑で拘束された際、承継候補としても名前が挙がった。当時、統合進歩党の比例代表候補18番だったところ、上位の候補がいずれも辞退したり正義党に党籍を移したりしたので承継が有力視されていたが、これは不発に終わった。

 李哲氏は在日韓国良心囚同友会長を務め、活動を続けている。この映画で李氏は「独立運動を行った人(金日成〈キム・イルソン〉)が指導する国(北朝鮮)と、関東軍将校だった人(朴正煕〈パク・チョンヒ〉)が指導する国(大韓民国)と、どうして比較になりますか」と語っている。

 別の主要登場人物である金昌五氏は現在、在日韓国民主統一連合(韓統連)大阪支部の事務局長だが、この韓統連は大法院で反国家団体だとの判決が出た団体だ。金氏は、汎民族大会で平壌へ行ったときのことをこのように回想している。「(平壌の)順安空港に到着して降りる瞬間、涙が止まらなかった。『ついに来た』、声を上げて泣いた。初めて祖国に来た」

 この映画は、朝鮮総連が主導した在日同胞北送事業も、北朝鮮の論理で擁護している。映画の字幕で、北朝鮮式の宣伝扇動表現を用いて「帰国運動(1958-1984)」と称し「在日朝鮮人およそ9万人が北に帰国」と説明している。映画には、「子どもたちを朝鮮人として学ばせようと北に送った」として、平壌と東京の間で気楽に電話のやりとりが行われているかのような場面も登場する。

 しかし在日同胞北送事業の実体は、既に広く知られている。北送事業は平壌の情報機関によって企画され、日本国内における北送事業の実行は総連を通してなされた。総連は、平壌の指令を受けて1959年から84年まで25年間、9万3340人の在日同胞を北朝鮮へ送り込んだ。総連は「北朝鮮は差別のない地上の楽園」だとして在日同胞を扇動したが、万景峰号に乗った在日同胞らは、元山港に降り立つなり、自分たちが地獄に着いたことを悟った。北朝鮮当局は手紙の検閲などで日本との連絡を徹底して禁じたので、在日同胞らは総連のうその扇動にだまされ続け、自らの足で生き地獄に入っていった。日本に残った同胞らは、北朝鮮で人質同然となってしまった家族のために毎年、かなりの額を送金しなければならなかった。

 北送された在日同胞らは食糧不足、物資不足に苦しんだのはもちろん、生涯「チョッパリ」といった蔑称で呼ばれて賤民(せんみん)扱いを受け続けた。とても生きていけないと独り言でも言おうものなら、家族全員が政治犯収容所に連行され、行方不明になった。人権団体が「総連の北送事業は現代版奴隷貿易」と糾弾している理由がここにある。今年で北送64年になるが、総連はこれまでただの一度も謝罪したことがない。北送船に乗った9万3000余人とその子孫まで含めた中で、これまでに脱北に成功したのはわずか200人ということが分かっている。

 こんな映画を支援するために、映振委は韓国国民の税金を使った。当該作品の製作会社が出した交付金支援申請書には「金昌五・大阪韓統連副委員長」というような形で記載があり、反国家団体であることが明確に分かっていたにもかかわらず、映振委は支援を決定した。従北的価値観を反復注入するドキュメンタリーなのに、映像物等級委員会は、シノプシスと台本の確認を済ませても12歳以上鑑賞可の等級指定を行った。映振委が支援を行った別のドキュメンタリー作品『差別』もまた、総連傘下の朝鮮学校の話だ。

 ペ・ヒョンジン議員は「創作の自由と芸術の独立性は憲法で保障されているように、自由民主主義の核心たる基本権」としつつも「反国家団体のメンバーが大挙登場する映画に国の税金が支援されることは、また別の問題」と指摘した。

ヤン・ジヘ記者

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