▲イラスト=UTOIMAGE

 東南アジアにはベトナム、マレーシア、インドネシア、ブルネイ、フィリピン、中国の6カ国に囲まれた南シナ海という巨大な海がある。南欧と北アフリカに囲まれた地中海と同じ姿をしたこの海は、面積が韓半島の15倍、地中海の1.5倍に達するほど広々としている。ここでは東南アジア各国の排他的経済水域(EEZ)の主張が複雑に絡み合っているが、基本的にはどこの国の所有でもなく、国際法上は公海に該当する海域で、東アジアと中東・欧州を連結する唯一の海上ルートだ。ここは、韓国行きのオイルタンカー・天然ガスタンカーの90%以上が通過するエネルギー生命線でもある。

 ところが中国は1970年代以降、南シナ海全体の90%に及ぶ広大な海域の独占的所有権を主張し、軍事的な強占を拡大していきつつある。2014年からは、この海域に人工島をおよそ30カ所も作って軍事基地化し、ここを通過する船舶に「通行許可を受けろ」と要求している。中国が主張する領海の範囲は、中国最南端の領土である海南島から実に1800キロも離れたボルネオ島のマレーシア領海北端にまで至る。一言で言えば、これはめちゃくちゃな主張だ。中国が領海権を主張する唯一の根拠は、先祖がその海域で数百年間漁業に従事するなど、歴史的主権を持っているというものだが、これはあたかも、旧ローマ帝国が支配していた地中海全体についてイタリアが所有権を主張するようにとんでもないものだ。

 これに反抗するフィリピン政府の法的提訴を受けて、常設仲裁裁判所は2016年、南シナ海に対する中国の領有権主張には根拠がないと判決した。しかし、現存の国際海洋法体系をもともと認めていない中国は判決不服を宣言した。米国は、中国の南シナ海強占を防いで航行の自由を守ろうと、2015年からアジア・太平洋地域の同盟諸国と共に、「航行の自由作戦」と呼ばれる多国籍海上示威を毎年3回から10回ほど行っている。この作戦には、域内における米国の同盟国がほぼ全て参加し、時には英国、フランス、ドイツ、オランダなど欧州諸国の艦隊まで合流している。米国の域内同盟国のうち、不参加国は韓国だけだ。

 こうした中国の違法な海洋領土拡張の企図は南シナ海に局限されず、韓国の近海でも進んでいる。国際海洋法によれば、国家間の重なり合った領海や経済水域の境界は、等距離原則に基づいて中間線を選ぶのが常識だが、中国は「大国の方がはるかに広い面積を占めるべきだ」という横暴な主張を引っ込めない。このため西海の韓中境界線は合意に至らず、両国の領海の間には韓国の面積と同じくらいの広さがある暫定措置水域が設定されている。理論上は、この水域の中間線が韓国のEEZの境界線だ。

 ところが中国はおよそ10年前から、ペンニョン島西側の海上を通過する東経124度線を一方的に中国軍の作戦境界線として宣布し、頻繁に海上軍事演習を実施している。中国は、韓国海軍がその線を越えて作戦を実施できないように脅し、かたくなに接近を遮断している。これは南シナ海における中国の違法占拠と似たやり方で、東経124度線を韓中の海上境界線として固めようという意図があるものと解釈される。そうした中国の意図が成功したら、西海の70%と韓中暫定措置水域のほぼ90%が中国の海になる。さらに一歩進んで、中国はEEZと防空識別圏(ADIZ)に離於島を含め、隠していた野心をあらわにした。もし離於島に韓国海洋科学基地がなかったら、中国の軍事施設が既にそこへ設けられていたかもしれない。

 こうした中国の動きに対する韓国政府と軍の対応は不透明で、生ぬるい。中国の不当な西海強占に対する韓国政府の反対の論理は明確で、強力なのかもしれないが、その論理を行動に移して海洋主権を守護しようという動きは見られない。米国が南シナ海で航行の自由を守ろうとして、中国海軍としばしば対決を繰り広げているように、韓国海軍が西海の海洋主権守護のために中国海軍と衝突を繰り広げているという話は聞いた記憶がない。中国と軍事的に向き合うのが負担だからと、中国の不当な西海強占を沈黙と順応で放置し傍観していたら、やがてこれはなじみのある先例・慣行となり、いずれは実効的支配の証拠として固められることになる。そのときになって大勢を覆そうとしたら、はるかに大きな対立と犠牲を甘受せねばならない。もし韓国政府と軍に西海を守ろうという意思があるのであれば、そのときではなくまさに今、行動に出るべきだ。

李容濬(イ・ヨンジュン)世宗研究所理事長・元外交部北核大使

ホーム TOP