韓国金融委員会が5日、6日から少なくとも2024年6月まで株式の空売りを突如禁止したことが波紋を広げ、株価が乱高下している。

 異例の「空売り全面禁止」発表で6日に急伸した株価は、7日に反落し、個人投資家は混乱に陥った。株価下落の元凶として名指しされた空売りさえ防げば、株価は上がり続けるかと思われたが、効果は1日しか続かず、個人投資家は失望した。

 空売りは約400年前にオランダの東インド会社の株主アイザック・ルメールが初めて考案した時から個人投資家には「公共の敵」として批判された。天才科学者アイザック・ニュートンでさえ、1720年に「南海会社(サウスシー・カンパニー)」という会社に投資し、空売り勢力にやられ、財産を失ったことは有名な話だ。いわゆる「南海泡沫事件」だ。

 コロナ初期の2020年、多くの国が株式の空売りを禁止したが既に解除した。ところが、韓国だけは最近まで小型株の空売りを禁止してきた。そして今回、金融危機局面でもないのに空売りが全面禁止された。専門家は個人投資家が韓国株式市場の売買代金の64%を占めるという特殊性が異例の事態を招いたとみている。

■空売りが韓国で悪者扱いされた理由

 個人投資家の間で空売りが問題になったのは、2013年の「セルトリオン事件」がきっかけだ。当時店頭市場コスダックで時価総額1位だったバイオテクノロジー企業セルトリオンの株価が2日間で27%急落すると、徐廷珍(ソ・ジョンジン)会長が「空売りのせいでやっていけない。会社を外国企業に売却する」と宣言した。当時海外の機関投資家が同社の臨床試験失敗説、粉飾会計疑惑などを指摘し、空売りで巨額の収益を得たという疑惑が浮上した。 怒った個人投資家は団結して空売り反対の声を上げ始めた。今年に入っても、エコプロなど電池関連銘柄で個人と空売り投資家による対決が繰り広げられた。

 韓国株式市場の売買代金で空売りが占める割合は多くても6%で、40%台に達する米日などに比べはるかに低い。空売り取引が外国に比べ活発でもないのに個人が空売りを標的にするのは、韓国株式市場で個人が持つ「パワー」が日増しに強まっているためだ。 

 韓国預託決済院によると、最近5年間で韓国株式市場の個人投資家は502万人から1424万人へと3倍近くに急増した。コロナ前は500万~600万人だったが、コロナと共に急増し、昨年は1400万人を突破した。

 個人投資家が増えるということは、市場の性格自体が変わることを意味する。市場の偏りが激しくなり、バブルが生じるなど価格効率性が低下する恐れがある。実際に資本市場研究院は個人投資家が急増した2020年3~10月に20万人の投資パターンと収益率を分析した。その結果、個人投資家は機関投資家とは異なり、「過剰確信(実際より誇張して確信を持つ傾向)」「宝くじ型の銘柄選択」といった非合理的な投資形態が目立った。匿名の株式市場専門家は「株価が上がることを期待する個人投資家と株価上昇に冷や水を浴びせる空売りは元々相性が合わない」と話す。

■個人の空売り参加は慎重に

 一部の個人投資家は空売り投資が外国人や機関投資家に有利な「傾いたグラウンド」だとして改善を要求している。個人が空売り目的で株式を借りる際、外国人や機関投資家に比べ、高い担保を要求され、返却期限も短いという不満だ。金融当局は空売り禁止期間に個人に不利な制度を改善すると説明している。

 しかし、制度が見直されても個人が積極的に空売りを行えるかどうかは未知数だ。株価下落に賭ける空売りは元々が資本力と専門性を備えた機関投資家の領域だ。韓国だけでなく、金融先進国でも個人の空売り投資は推奨していない。株式投資は株価が下がれば下落幅分だけ損をするが、空売りの場合、最悪元本以上の損失が出る恐れがある高リスク投資だからだ。

 資本市場研究院のイ・ヒョソプ金融産業室長は「株価下落に賭けるには、企業に対する高度な分析能力が必要だが、個人投資家は機関機関投資家に比べ、そうした能力が不足している」とした上で、「たとえ個人に機関投資家と同様に空売りできる資格を与えるとしても、ヘッジ(リスク回避)目的の空売りが大半を占める機関投資家のように安定的な収益を上げることは難しいはずだ」と指摘した。

金垠廷(キム・ウンジョン)記者、金智燮(キム・ジソプ)記者

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