韓国政府は、2018年以降9・19南北軍事合意によって縛られていた軍事境界線(MDL)付近での対北空中偵察について、22日に正常化を行い、対北監視の空白を埋めることができるようになった。軍事合意を完全に破棄はせず、飛行禁止区域の設定に関連した1条3項のみ部分的に効力停止とした点も、今後の北朝鮮のさらなる挑発の可能性などを考慮した「賢い戦略的解法(選択)」だという評価もある。

 軍事合意書1条3項により、金剛・白頭偵察機など固定翼機の場合は東部地域においてMDLから40キロ、西部地域において20キロまでを飛行禁止区域とした。回天翼機(ヘリコプター)はMDLから10キロ、無人機は東部地域で15キロ、西部地域で10キロ、気球は25キロという形でそれぞれ飛行を制限した。だが22日午後、この条項の効力が停止されたことで、制限は解かれた。

 韓国軍ではこれまで、この条項のせいでMDL近辺における対北監視偵察作戦をきちんと実行できず、最前方など北朝鮮地域に対する監視の空白を招いた、という批判が起きていた。韓国軍の主な職位者や指揮官らがヘリに乗って前方部隊を視察しに行く際は、飛行禁止区域の外でヘリから降り、車に乗って行かなければならないという状況も発生した。

 特に、空中監視偵察能力は韓米両軍が北朝鮮より圧倒的優位にあった分野なので、韓国側が一方的に譲歩したという批判も起きていた。軍事境界線の10-40キロ南までしか韓米両軍の偵察機・無人機などが飛べなくなったのに伴い、高い山の陰にある偵察死角地帯(遮蔽地域)が大きくなってしまう問題も生じた。例えば、西部地域で戦術偵察機が高度5000メートルを飛行する場合、軍事境界線から50キロ北にある高さ1000メートルの山の陰には17.5キロの死角地帯が生まれる。

 韓国軍が多額の予算を投じて開発した新型の師団級無人機は、探知距離が5-8キロなので、軍事合意により事実上無用の存在となった。無人機の飛行禁止区域が無人機の探知距離の2倍くらいもあるせいだ。最近のハマスによるイスラエル奇襲成功は、こうした問題の深刻さを一段と浮き彫りにする契機となった。特に、非武装地帯(DMZ)付近から韓国首都圏を脅かしているおよそ340門の長射程砲などをきちんと監視するためには、無人機や戦術偵察機がDMZに隣接して飛行できなければならないのに、軍事合意が「足枷」になっていたからだ。

 北朝鮮による1回目、2回目の偵察衛星打ち上げの際には軍事合意の効力停止問題を持ち出さなかったのに、今回は措置を取ったことについて、国防部(省に相当)の関係者は「イスラエル・ハマス戦争など幾つかの状況を見て、これまで軍事的に忍耐してきた制限事項を克服すべきだと判断した」と明かした。さらにこの関係者は「1回目、2回目の打ち上げ時は(北の衛星の残骸物を)引き揚げを行って分析した結果、北朝鮮の諸能力は高くないと判断した」としつつ、「最近は、ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)が首脳会談を通して衛星打ち上げ技術の協力を行い、衛星体についての技術的進展で、北朝鮮がこれまで持っていなかった高高度からの監視偵察能力を持つに至ったと評価した」と説明した。

 今回の措置に伴って、韓米両軍は各種無人機や偵察機などでの対北監視偵察を飛行禁止区域なしに実施できるようになった。在韓米軍が運用しているRC12X「ガードレール」、EO5S「クレイジーホーク」などの戦術偵察機も、DMZ近くでの偵察飛行が可能になった。国防部関係者は「軍団、師団級無人機が飛行禁止区域のせいで後ろに下がって作戦を遂行せねばならず、これにより監視がなされない遮蔽地域があった」とし、「今後、韓国の無人機などをDMZ近くで運用することになるだろう」と語った。

 一部では、北朝鮮が米国のグローバルホーク無人偵察機、リーパー無人攻撃機と極めてよく似た戦略無人偵察機を開発し、試験飛行まで実施した状態なので、既に「MDL偵察飛行禁止」は無意味だという指摘もなされている。

 専門家らは、今回の措置について、対北監視偵察の盲点などを補完するための不可避の選択だったと語った。朴元坤(パク・ウォンゴン)梨花女子大教授は「軍事合意の目標が衝突を防止し、信頼を構築するためのものであるなら、相互の監視偵察をむしろ拡張・許容しなければならないのに、9・19軍事合意は正反対のことをやった」とし、「歴史的に前例を見出し難い形態のボタンの掛け違いを正すもの」と語った。

 韓国国防研究院安保戦略研究センターのイ・ホリョン所長は「1条3項のみの部分的な効力停止を行ったのは、北の偵察衛星強化に焦点を合わせたもので、賢い戦略的選択だった」とし、「今後の偵察衛星のさらなる打ち上げ、7回目の核実験など追加挑発に備えて、軍事合意1条3項(軍事訓練、海上緩衝区域など)などを残しておいた」と語った。

ユ・ヨンウォン記者

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