▲写真=UTOIMAGE

 2024年は全世界50カ国余りで40億人以上が投票する選挙の年だ。その皮切りとして、今月13日に行われた台湾総統選では民主進歩党(民進党)の頼清徳氏が当選した。60%が政権交代を望んだにもかかわらず、国民党は敗北した。建設的な議題を示さないまま、軍事的圧力を加える中国の顔色をうかがい、「戦争か、平和か」と叫んだことが敗因だった。それとは異なり、民進党は「民主主義か権威主義か」というスローガンで堂々と中国の脅威に対抗した。若年層の多くは中国に屈服する国民党ではなく、第三勢力の台湾民衆党を支持した。その結果、頼清徳氏は40%以上を得票し、国民党の侯友宜氏を約7ポイント引き離した。

 中国発の戦争の脅威がブラックホールのようにさまざまなイシューを呑み込んだにもかかわらず、台湾人は自由と民主を選択した。中国の軍事的挑発と政治的圧力に対抗した現実的決断だった。その点で台湾の選挙は全世界の選挙に示唆を与えるところが大きい。3日後の16日、米アイオワ州の共和党党員大会ではトランプ前大統領が圧倒的な1位となった。一見無関係に見える二つの出来事は、意味深長な同時性を示している。

 好むと好まざるとにかかわらず、トランプ氏は台湾を援護して中国と対決した反中闘士の先鋒だ。2016年に蔡英文政権が発足すると、中国の圧力と懐柔で7カ国が台湾と断交した。それに対応して米議会は18年3月、米台の公職者の自由な相互訪問を認める「台湾旅行法」を制定。20年3月には台湾の国際的地位を高める「台湾同盟国際保護強化イニシアチブ法」を超党派で成立させた。中国は強く反発したが、トランプ前大統領は両法案に署名した。

 現在、米国を席巻しているトランプ現象は、反中感情と直結している。結果がどうであれ、米大統領選挙の最大の争点は中国問題だ。米国人の多くは全体主義中国が世界の覇権を狙って陰険な手段で米国社会を破壊しようとしていると信じている。19年まで順調だった米国経済はコロナ禍で急転直下となった。20年だけで960万人が職を失った。米国人は未曾有のロックダウンを経験しなければならず、多くの群衆が暴力デモに加わった。現在米国人の多くは、中国のせいで米国の製造業が衰退し、伝統的価値が解体され、社会の綱紀が崩れていると感じている。米国の軍事専門家らは、新型コロナウイルスが中国政府の未必の故意による生物学戦であり、現在北米で広がる合成麻薬フェンタニル中毒は中国による化学戦だと公然と話している。23年のピュー研究所による調査によると、米国人の83%が中国に否定的だ。

 中国内外の戦略家らは、中国が既に長い間、世界各国を狙い、時にはひそかに、時には露骨に、さまざまな方式の政治戦(political warfare)繰り広げてきたと指摘する。政治戦は戦わずして敵を無力化する静かな戦争だ。ゲリラ戦術で中国大陸を奪取した中国共産党の指導部は政治戦の達人だ。中国は世界制覇の野心を抱き、相手国の財界、法曹界、学界、マスコミ、サイバー分野の随所に入り込み、ねつ造や陰湿な攻撃、扇動、脅迫、懐柔、報復などあらゆる手段で所期の目的を達成する。中国式の超限戦(unrestricted warfare)、つまり通常の軍事作戦の限界を超える制限なき戦争だ。

 2024年に選挙を行う40億人は超限戦の標的になる可能性がある。表現の自由と価値の多様性を保障する開かれた社会の選挙は、フェイクニュース、虚偽情報、扇動、中傷などさまざまな方式による全体主義的攻撃に脆弱だ。地政学的に韓国は中国と北朝鮮の攻撃に全面的にさらされている。2010年に北朝鮮の魚雷艇が韓国海軍の哨戒艦天安を撃沈した際、軍事テロの前でも世論は両極端に分かれた。野党は「戦争しようというのか」という一言で地方選挙で勝利し、北朝鮮はこっそりと免罪符を受けた。軍事作戦と心理戦が入り混じったハイブリッド脅威の実例だ。

 4月の韓国総選挙を控え、北朝鮮の挑発はさらに大胆になり、中国の超限戦はひときわ巧妙になりそうだ。情報革命の時代、一国の選挙はもはや一国の事件ではない。韓国総選挙は与野党の権力闘争であるだけでなく、国際秩序の再編過程でもある。台湾人は戦争の脅威に立ち向かって、命懸けで自由と民主を守った。台湾のように韓国も全体主義の脅威に苦しむ自由陣営の最前線だ。自由民主主義の国際的連帯を守ってこそ、北東アジアの真の平和が保障される。

宋在倫(ソン・ジェユン)カナダ・マクマスター大教授(歴史学)

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