正祖(チョンジョ)、退渓(テゲ、李滉=イ・ファン=)、高宗、朴正熙(パク・チョンヒ)…。「歴史学者」とされる金俊爀(キム・ジュンヒョク)氏の手にかかれば、全て「性に狂った人間のくず」になる。「放送ではお聞かせできない。視聴者の皆さんのご理解をお願いする」というお断りを何度も耳にした。それでも彼は当選した。

 保守系候補がこんな発言をしたならば、どんなことが起きたのかは明らかだ。候補辞退は当然であり、党の支持率が急落しただろう。民主党関係者のセクハラ、性的暴力事件は多すぎて書ききれない。それなのに、女性界は「忍」の一字だ。なぜだろうか。金俊爀の暴言に対する梨花女子大の対応にそのヒントがある。

 「初代総長の金活蘭(キム・ファルラン)が楽浪クラブをつくり、梨花女子大生に性上納させた」という発言が明らかになり、梨花女子大の同窓生、教授、在学生らがデモに乗り出した。現場の写真を見ると、デモ参加者は主に中年と高齢の女性だった。総同窓会が金俊爀氏に候補辞退を求める署名を1万筆以上集めたというが、波及することはなかった。脱北者で梨花女子大卒業生のキム・ダヘさん(44)が剃髪してハンストを行ったが、在学生による同調ハンストや連帯闘争はなかった。ありふれたろうそくデモも、SNSに「#私はホステスか」といったハッシュタグが付くことも、パフォーマンスもなかった。盛り上がりに欠けた。「梨花女子大の闘争能力はこれだけか」という声を何度も聞いた。

 大学関係者がこんなことを言った。「市民運動勢力がバックにないからだ。それでも総学生会が糾弾声明を出してくれたことは幸いだ」と。梨花女子大総学生会が出した声明は「今後梨花女子大に対する不適切な内容で政争を拡散させないこと要求する」 と締めくくられている。あまりに穏やかではないか。

 すると「形勢逆転」が試みられた。在学・卒業生で構成される「歴史の前で堂々とした梨花を望む梨花人一同」10人余りは「金活蘭は公認された親日反民族行為者だ。梨花女子大の真のプライドは、金活蘭の過ちを究明し、彼の悪行と決別することだ」と主張した。性上納発言問題を「親日」というフレームで押しつぶした。韓医師、女性主義者で、親北朝鮮的な行動で知られる同大学出身のコウン・グァンスン氏も同調した。「梨花女子大の政治外交学科に通っていた1935年生まれの叔母が金活蘭氏による性上納の被害者だったことを知った」という発言だ。梨花女子大はコウン氏の主張が虚偽であることを明らかにした。

 「女性運動界は勢力が小さく、内部の階級秩序、連帯は男性に劣らない。同じ釜の飯を食べていることと関係がある。女性界に割り当てられたポストと地位の分配を受けるためには、異論を唱えることは難しい」ーー。 慰安婦運動を汚した尹美香(ユン・ミヒャン)氏に女性界が正論をぶつけなかった理由、安熙正(アン・ヒジョン)元忠清南道知事、朴元淳(パク・ウォンスン)元ソウル市長の権力型性暴行事件で女性運動勢力が被害者を「被害呼訴人(被害を訴えている人の意)」と呼んだことも「同じ釜の飯」の論理としては理解できる。

 では平凡な20代はなぜ憤りを感じないのか。「気持ち悪くて汚らわしいが、年寄りは皆同じようなものではないか」「フェミニストの学者が当時は女性搾取、性上納があると言っていた」――。若い女性たちが「バイブル」とするインターネット上の女性掲示板にはすでに「性的接待=ファクト」という信念が広がっていた。金俊爀発言が事実ではなくても、「女性家族部廃止」を公約に掲げた国民の力ではなく、民主党に「200議席」を与える決心ができていた。保守政党は若者の歓心を買おうとバラマキを行うのではなく、「反保守」の原因を分析することに時間をかけなければならない。

 こんな質問をしてみたい。自分たちも守ろうとしない彼女らの名誉を他人が守ってやる必要はあるのか。必要だ。健全な大学と構成員の名誉を汚した発言は、必ず審判を受けなければならない。目撃者が乗り出さなければ、韓国社会は陣営内の強者が弱者を踏みにじる動物の王国になるからだ。もう半分はそうなっているが。

朴垠柱(パク・ウンジュ)記者

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