中国のレアアース業界を代表する大手国有企業の業績がさえません。レアアースの国際価格下落によって、昨年の売上高と純利益が大幅に減少したのに続き、今年第1四半期(1~3月)には相次いで赤字を計上しました。最大手の中国北方稀土(集団)高科技(北方稀土)は5200万元(11億円)の黒字でしたが、黒字幅が昨年第1四半期と比べ94.4%も縮小しました。

 レアアースは独特の化学・電気的特性を持つ17種類の元素の総称で、先端産業の重要素材です。電気自動車(EV)や風力発電機、ジェットエンジン、LEDディスプレーの製造などに幅広く使われます。戦闘機やミサイルなどを作るのにも欠かせない戦略物資です。

 中国は全世界の供給量の70%を占めるレアアース大国で、これまでレアアースを経済報復の手段として活用してきました。2010年の尖閣諸島(中国名・釣魚島)紛争当時、日本へのレアアースの輸出を禁止したのが始まりでした。米国が中国の華為(ファーウェイ)を制裁すると、「米国へのレアアース輸出を規制する」という脅しもかけました。

■昨年だけで30~40%下落

 中国がレアアースを武器化すると、米国、日本、オーストラリアなどは東南アジア地域でのレアアース生産を増やし、独自の精錬工場を稼働するなど、独自のレアアース供給網の構築を本格化しました。その結果、レアアースの供給が増え、国際価格が下がり、中国のレアアース企業が一斉に損失を出したのです。

 中国のレアアース業界を代表する中国稀土集団資源科技は、昨年の売上高が5.4%減、純利益が45.7%減となりました。今年第1四半期には2億8900万元の赤字を出しました。最大のサプライヤーである北方稀土も昨年の売上高が10%減少、純利益が60%減だったと発表しました。 大手5社の一角である盛和資源も昨年の純利益が80%減となり、今年第1四半期には2億1600万元の赤字を記録しました。

 中国のレアアース業界の業績悪化は、レアアースの国際価格下落が最も大きな要因です。昨年レアアースの国際価格は元素別に30~40%下落しました。EV用永久磁石に使われるネオジムは、昨年末の価格が年初に比べて40.4%下落しました。

■ミャンマーなどのレアアース生産急増

 米地質調査所(USGS)の資料によれば、昨年の世界のレアアース供給量は35万トンで、2022年(30万トン)に比べ16.7%増えました。ミャンマーが1万2000トンから3万8000トンへと216%増加し、中国も21万トンから24万トンへと14.3%増えました。米国も4万2000トンから4万3000トンへと小幅ながら増加しました。

 一方、レアアースの需要は低迷しました。中国はゼロコロナ終了後も景気回復が遅く、昨年の製造業景気は全体的に低調でした。物価が下がり続け、デフレの懸念まで指摘されるほどでした。

 米国、日本、オーストラリアが独自のサプライチェーンを構築したことも、中国メーカーに大きな打撃を与えました。中国のレアアース埋蔵量は2023年末時点で4400万トンで、全世界の約40%を占めています。しかし、ベトナム(2200万トン)、ブラジル(2100万トン)なども埋蔵量が豊富です。オーストラリア(570万トン)、米国(180万トン)の埋蔵量も少なくありません。それでもこれまで中国の発言力が大きかったのは、進んだレアアース精錬技術で埋蔵量を上回る精製レアアースを国際市場に供給してきたからです。

 レアアースは「珍しい土壌物質」という意味ですが、実際には地表面にも大量が存在するとされます。ただ、あまりに含有量が少ないため、抽出は容易ではありません。抽出時に有毒化学物質を使用するため、土壌と地下水が汚染され、放射性物質が排出される問題もあります。そのため、米国は世界第2位のレアアース生産国でありながら、自国の精錬施設を廃止し、レアアースを全量中国に送って精製してきました。

■中国のレアアース覇権に打撃も

 レアアース分野で中国の脅威が強まると、米国はサプライチェーン再編を急ぎました。政府補助金を支給し、米国内のレアアース精製工場を再稼働し、独自に精錬を始めました。オーストラリアも日本、ベトナムと協力し、独自のレアアースサプライチェーンを構築しました。

 北方稀土は今年初めの開示資料で、「米国とオーストラリア、ラオス、ミャンマー、アフリカ地域を中心に独自のレアアース供給網が形成されている」とし、「中国のレアアース産業の地位と影響力に打撃を与えるだろう」と指摘しました。日経アジアも「ライバル国がサプライチェーンの構築を急いだ上に、中国の国内景気も不振で、中国のレアアース企業の売上高減少と純損失が大きかった」と報じました。

 中国のレアアース業界は依然として競争力があり、生産量と埋蔵量も圧倒的です。ただ、好きなときにレアアース供給中断のカードを切るのは難しくなりました。米国、日本、オーストラリアなどが中国をけん制できる独自のサプライチェーンを構築したほか、レアアースを回収してリサイクルする技術も続々と開発されています。むやみに武器を振り回すと、今回のように自ら墓穴を掘ることもあるのです。

崔有植(チェ・ユシク)記者

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