▲グラフィック=イ・チョルウォン

 東京都内から車で50分の所にある北郊外の町、成増を訪れた。2月3日の朝、成増駅近くにある重症患者のケア施設「医心館」に訪問歯科診療チームが訪れた。歯科医師と歯科衛生士、訪問診療チームの運転手の3人だ。週に1度行われる定期訪問だ。

▲グラフィック=イ・チョルウォン

 医心館には、脳卒中の後遺症患者、大腿(だいたい)骨骨折で身動きが取れない高齢患者、末期がん患者、パーキンソン病など退行性脳疾患患者などを含む約40人が入所している。彼らは体の動きが困難で、歯と口腔(こうくう)疾患の治療を訪問診療チームに依頼している。

■日本、訪問歯科診療の活性化

 訪問歯科診療チームは、パーキンソン病を患っている83歳の女性の病室を訪れた。歯科医が口腔状態を検診し、口内炎を治療。歯科衛生士は舌に付いた舌苔(ぜったい)を除去し、歯間ブラシで歯の間に挟まった汚物を除去した。15分ほどかかる診療作業だった。同日午前、訪問歯科診療チームは複数の病室を回りながら入所患者9人を診療した。歯周炎を治療し、口腔と歯のクリーニングを行い、時には入れ歯を外して話したり飲み込んだりする機能がどの程度なのかも測定する。

 訪問歯科診療チームは、体の不自由な患者の家も訪問する。足の骨の骨折で身動きが取れず、ベッドの上で過ごす85歳の女性患者は、総入れ歯だけで暮らしていた。入れ歯は口の中で動き続けるため、時には突出した入れ歯の部分が口蓋(こうがい)に当たり、潰瘍を引き起こす。患者はこれによって痛みを感じていた。これに対し訪問診療チームは、「ウィーン」という音がする歯科用電動機を用いて入れ歯の突出部位を削ることで、口蓋に触れないように作り直した。入れ歯の出し入れを繰り返し行い、患者が痛みを感じなくなるまで修正した。

 訪問歯科診療チームは、高齢で身動きが取れない92歳の女性患者の自宅も訪れた。患者は飲み込み機能が低下し、水を飲むと水が食道に流れず、気道と肺の方に流れ込むため、むせたようにせきをする。食べ物と水が肺に入って誤嚥(ごえん)性肺炎を引き起こす恐れがあった。

 そこで歯科診療チームは、簡易内視鏡装置を取り出して患者の咽頭と喉頭の機能をチェックした。患者にとろみのある粘度の飲み物を飲み込ませた後、この飲み物が食道ではなく気道に入ってしまわないか、携帯用iPad(アイパッド)に連結した内視鏡画面を見ながら確認した。訪問診療チームの若杉葉子歯科医(悠翔〈ゆうしょう〉会医療法人在宅医療部歯科部長)は「内視鏡検査を通じて患者の飲み込み能力のレベルに合った水の粘度を求めて普及する」とし「そうしてこそ、むせて生じる誤嚥性肺炎を予防することができる」と述べた。

 日本は2000年代初め、65歳以上の高齢人口の占める割合が20%を超える超高齢社会に突入し、一般医師の訪問診療はもちろんのこと、訪問歯科診療を本格的に導入した。現在では、全国の歯科医院6万6843カ所のうち、約21%に相当する1万4000カ所が訪問歯科診療を実施している。ある医院で月平均70件余りの訪問診療が行われている。これを基に計算すると、1年間の訪問歯科診療件数はざっと1100万件と推算される。

 一方、韓国は昨年末、超高齢社会に突入したにもかかわらず、訪問歯科診療制度やシステム自体が存在しない。歯科疾患があったり、口腔機能に問題があっったりしても、何とかして歯科医を訪れなければ診療を受けることができない。このため、療養病院1400カ所の入院患者60万人、療養院入所者30万人、体が不自由なため在宅療養サービスを受ける150万人、長期入院重患者、体の不自由な障害者など約300万人の歯の疾患、入れ歯の不良、歯周炎などが放置されている。歯周炎は全身に広がり、心臓の炎症や敗血症を引き起こすことがある。超高齢社会を迎え、肺炎は全体の死亡原因の3位にまでのし上がった。高齢者の肺炎は、主に食べている途中、食べ物や水が肺に入って生じる誤嚥性肺炎である。

 チョン・ヨンス(延世大学歯科学部長)大韓歯科病院協会会長は「体の不自由な人でも口腔管理を定期的に行い、少しでも長く健康に生活できるようにしなければならない」とし「私たちも訪問歯科診療システムと、飲み込みやかむ力などの口腔機能を評価する口腔検診を早急に導入しなければならない」と促す。

■老衰を抑える口腔機能検診

 日本は歯の疾患だけでなく、飲み込みや発音、舌の動きなどが衰える「口腔老衰」という概念を新たに導入した。口腔機能低下症という疾患を確立し、口腔健康が全身健康のゲートという意味で高齢者を対象に口腔機能検診に積極的に乗り出している。

 口腔機能検診を確立し、先駆者として活動する東京健康長寿医療センターの平野浩彦歯科・口腔外科部長は「よくかんで、よく飲み込んで、よく話す機能を携えた口腔が健康であってこそ、全身の健康が保たれる」とし「口腔老衰予防が老年期の身体虚弱やうつ病、社会的孤立を防ぐ最初の関門」と力説する。

 日本では、口腔機能検診は町内の歯科医院でも10-15分程度で受けられるように簡易化され、これを健康保険で支援している。検診項目は7種類で、このうち三つ以上の異常が見つかれば、口腔機能低下症と診断される。検査項目は舌苔量を測定する口腔衛生評価、口腔乾燥を評価する舌湿潤度測定、上下奥歯のかむ力の測定、「カ、パ、タ」などの音をそれぞれ5秒間に発音できた回数の測定、舌が口蓋を押す力の測定、食べ物をよくかんで食べるそしゃく力の測定などだ。飲み込み機能の評価は、日常生活において水と食べ物をよく飲み込んでいるか、アンケート調査で評価する。

 平野歯科部長は「口腔機能に問題がある高齢者を早期に発見して改善する、リハビリプログラムを適用する」とし「超高齢社会では口腔検診や訪問診療といった先取り治療管理体系が社会をより健康にするほか、全体の医療費を節減することにつながる」とした。

金哲中(キム・チョルチュン)医学専門記者

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