国際総合
太陽電池・鉄鋼分野のゾンビ企業を延命させた中国…「不動産バブル崩壊時のように共倒れの危機」
中国の代表的な供給過剰業種に数えられる太陽電池業界と鉄鋼業界は昨年、それぞれ600億元(約1兆2270億円)、308億元(約6300億円)を超える大幅な赤字を記録しました。年が明けて主な上場企業の業績が続々と発表されていますが、中国メディアが速報値を集計したところ、そういう数字が明らかになりました。
【写真】中国江蘇省塩城市にある通威の太陽電池工場の内部
中国はここ数年間、国内における景気低迷を受け、原価を下回る赤字覚悟の輸出で世界各国の産業生態系を混乱させてきました。いわゆる「デフレ輸出」です。その主因は供給過剰。供給が需要を大幅に上回るため、中国国内だけでなく海外市場でも身を削るような値下げ競争を行っているのです。米国はもちろん、ブラジル、タイなど中国に友好的な開発途上国も関税障壁を高めるほど深刻な弊害を生んでいます。
中国の国内外からはこうしたデフレ輸出が難しくなるとの見方が示されています。中国の地方政府はこれまで淘汰(とうた)されるべき「ゾンビ企業」に存続のための補助金を支給し、供給過剰をあおってきましたが、不動産不況で財政状況が厳しくなり、支援継続は容易ではなくなっています。先ごろ発足したトランプ政権も「国内の消費低迷によるデフレ圧力を他国に転嫁すべきではない」として徹底した関税戦争を予告しています。
■上場企業の6–7割が赤字
中国の太陽電池業界は昨年、過去最悪の業績に落ち込みました。1月末までに業績を発表した太陽電池分野の上場企業30社のうち20社が赤字を出し、赤字額の合計は600億元を超えました。シリコンウエハーメーカー最大手のTCL中環は赤字が89億元に達しました。ポリシリコン(多結晶シリコン)メーカーの通威をはじめ、隆基緑能科技(ロンジソーラー)、天合光能(トリナソーラー)、晶澳太陽能(JAソーラー)など中国を代表する太陽電池メーカーも大幅な赤字でした。
主因は供給過剰による価格下落です。太陽電池産業は原材料であるポリシリコン、それを加工して製造したシリコンウエハー、ウエハーに使われる太陽電池セル、セルを組み合わせた太陽電池モジュールなどで構成されます。中国太陽光発電産業協会(CPIA)によると、昨年の年初からか10月までの期間にポリシリコンは35%、シリコンウエハーは45%、太陽電池セル・モジュールは25%それぞれ値下がりしました。
中国では2011年の福島原発事故以降、太陽光産業が急成長しました。中国政府が2011年から2022年までに太陽発電能力の拡充に500億ドルをつぎ込んだおかげです。国内の豊富な燃料と安価な電気料金、政府補助金を背景として、中国の太陽光業界は世界を席巻しました。欧米、日本のメーカーが中国勢の価格攻勢に次々と破綻しました。中国の太陽電池分野における世界シェアは80%を大きく上回ります。
■地方政府の支援でゾンビ企業清算できず
問題は政府による補助金で安易に経営してきたため、生産能力が需要に比べ過多である点です。中国の太陽電池生産能力は昨年時点で1200ギガワットを超えました。 全世界の年間設備需要(500~600ギガワット)の2倍以上に達します。そのため中国企業同士でで激しい価格競争が繰り広げられ、巨額の損失につながりました。
供給が多過ぎるならば、競争力が劣る企業を淘汰させる必要がありますが、中国ではそれが容易ではありません。安価な用地提供、低利融資、補助金で各地の地場太陽電池メーカーを育成してきた地方政府が地域経済の縮小と失業率上昇などを懸念し、ゾンビ企業の倒産を阻んでいます。CPIA主導で過当競争の自粛、業界再編などを目指していますが、実現の可能性は高くありません。
鉄鋼業界も同様の状況です。1月27日までに業績を発表した上場企業のうち、18社中14社が赤字で、赤字規模は合計で308億元に達しました。鞍山鋼鉄は昨年の赤字が71億元にも上りました。中国の鉄鋼産業はただでさえ供給過剰なのに、不動産市況低迷による直撃も受けました。
■供給過剰、不動産バブルのような業界崩壊も
中国国内で消化できていない太陽電池・鉄鋼製品は原価にも満たない価格で国際市場にあふれ、多くの国に被害を与えています。ブラジルは南米における代表的な親中国ですが、昨年10月には中国製鉄鋼製品に25%の関税をかけました。韓国政府も中国製厚板に最高38%の反ダンピング関税の適用を検討しています。
トランプ政権は中国のダンピング輸出に対する強硬な対応を予告しました。ベッセント米財務長官は2月25日、訪米したオーストラリアのチャーマーズ財務相にトランプ政権の関税政策を説明し、「中国はもっと内部消費が必要だ。内部のデフレ圧力を他国に転嫁してはならないという点を断固として主張すべきだ」と述べました。米国は中国製のダンピング製品が市場にあふれないように関税障壁を大幅に引き上げようとしています。
中国に30年住んだウトケ元在中国欧州連合(EU)商工会議所会頭は2月24日、スイス紙への寄稿で、「中国の生産過剰問題が臨界に近づいており、不動産バブル崩壊当時のように数千社の企業が破産するだろう」と指摘しました。ウトケ氏は「過剰生産を支えてきた地方政府の資金源が枯渇しており、世界的に保護貿易主義も高まっている。過剰生産体制が解体される過程は非常につらいものになるだろう」と予測しました。
崔有植(チェ・ユシク)記者