▲キム・ヒョンジ大統領秘書室第1付属室長

 冒とく・侮辱とは、言動によって相手を辱めるという意味だ。最近行われた国会国政監査で、与党系の議員が曺喜大(チョ・ヒデ)大法院長(最高裁長官)の前で「曺喜大」と「豊臣秀吉」を合わせた「チョヨトミ・ヒデヨシ」と書かれたプラカードと低俗な合成写真を掲げた。侮辱どころか人格を踏みにじる行為だ。一方でこの議員は「嫌中デモ」を念頭に与党・共に民主党が発議した「特定の国と国民を侮辱した場合には懲役刑で処罰できる」という法案に、共同発議者として名を連ねた。「チョヨトミ」は許されるが「チャン〇」(中国人をさげすむ呼び方)は許されないというわけだ。

【写真】道端に掲げられた政党の横断幕…真ん中にはキム・ヒョンジ室長をやゆする小規模政党の横断幕も

 李在明(イ・ジェミョン)大統領が、(李華泳〈イ・ファヨン〉元京畿道副知事の裁判中に)法廷から集団で退場した検事たちに対する監察を指示し「法官(裁判官)に対する冒とくは、司法秩序と憲政を否定する行為だ」と述べた。「司法府の独立」と「三権分立」も強調した。ところがその後、共に民主党の代表は曺喜大・大法院長に対し「ずうずうしい」と述べた。侮辱的な発言だ。内乱関連の裁判など「司法府の独立」を揺るがす違憲的な法律を無理やり成立させようとしているのも共に民主党と韓国大統領室だ。民主党と大統領室の意にそぐわない判決を下した裁判官は、侮辱と人格攻撃に苦しむ羽目になる。大統領は「三権分立」を訴えながら、国民が選出した立法権力が司法の権力より上にあるといった発言も行った。三権分立、司法府の独立、裁判官に対する冒とく、この全てに二重規範(ダブルスタンダード)を持ち込んでいるのだ。

 大統領は、一部政党の横断幕が「低俗で恥ずかしい内容だ」として、これらを規制するための法改正を指示した。すると共に民主党は、嫌悪表現(ヘイトスピーチ)や誹謗(ひぼう)中傷が書かれた政党横断幕を制限する内容の法案を国会常任委で処理した。特定の国や人物に対する過度の批判は規制する必要がある。しかし、「低俗な横断幕」の乱立は、もともと民主党が招いた事態だ。2022年に屋外の広告物を規制した際、その対象から政党の横断幕を除外する法案を主導したのは民主党の議員たちだったのだ。その後、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権時代には、日本の原発処理水の海洋放出を巡って「国民は放射能の食卓(にさらされる)」、強制徴用関連の交渉については「李完用(イ・ワンヨン=韓日併合条約に調印し、韓国で親日派とされる人物)の復活」と表現した横断幕を掲げ、尹政権を反日だと責め立てた。

 最近の政党横断幕には「キム・ヒョンジ(大統領秘書室第1付属室長)はいったい何様なんだ」「大庄洞の控訴放棄、7400億ウォン(約780億円)が蒸発」などと書かれている。横断幕に「キム・ヒョンジ」や「大庄洞」という文言が入っていれば、根拠のない誹謗中傷だと見なされ、「制限法」によって掲示が禁じられる可能性がある。自分がすれば「表現の自由」で、他人がすれば「嫌悪・中傷表現」になるというのか。

 大統領は「政教分離」の原則に言及し「違反すれば憲法と憲政の秩序を損なう重大な事案だ」と述べた。9日には「宗教団体が政治介入や違法な資金によっておかしな行為をしている場合の解散方法」の検討を指示した。「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)が与党・国民の力に政治資金を提供した」とする特別検察官チームの捜査に基づいて、旧統一教会の解散や財産帰属にまで言及したのだ。ところが、共に民主党が選任した「金建希(キム・ゴンヒ=尹前大統領夫人)特検」は、旧統一教会の元幹部が「国民の力だけでなく、共に民主党にも政治資金を提供した」と供述したにもかかわらず、共に民主党に対しては捜査を実施しなかった。具体的な名前や金額まで取りざたされているのに、「金建希夫人とは関係がないため捜査対象ではない」というのだ。これまで行ってきた数々の別件捜査はいったい何だったのか。同じカネでも、国民の力が受け取れば「政教分離」違反で、共に民主党が受け取れば問題にならないというのか。

 大統領の側近であるチョン・ジンサン元共に民主党代表室政務調整室長に対する検察の起訴状には、具体的な宗教団体名が登場する。2014年の城南市長選挙の際に「不正に支援した」という内容だ。いわゆる「大庄洞一味」は法廷で「李在明市長(当時)再選のために票を入れるという条件で、一部の資金を『特定の宗教』に渡したと聞いている」とも話した。共に民主党は大庄洞事件の捜査自体を「捏造(ねつぞう)」だと主張しているが、裁判で有罪が認められれば「政教分離」違反ということになるのではないか。

 政治の世界で「ネロナムブル(私がすればロマンス、他人がすれば不倫=自分に甘く、自分以外に厳しいこと)」は今に始まったことではなく、一口二言(二枚舌)のケースも少なくない。それでも、以前はそのような場合には何となく気まずそうな雰囲気を醸し出していた。最近ではそんな様子も見られない。妙な世の中になったものだ。

安勇炫(アン・ヨンヒョン)論説委員

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