▲イラスト=UTOIMAGE

 「日本政府がお送りする日本の風です。この番組は拉致問題を中心に日本と北朝鮮の関連ニュース、日本の現在の様子や日本の音楽をお送りしています」

 これは日本で毎晩放送されている短波ラジオ番組「日本の風」のオープニングだ。この番組は2007年7月から毎日放送され、変わらない形で今も続いている。もちろん北朝鮮でも聞くことができる。

【写真】横田めぐみさんの拉致問題を伝える日本政府のユーチューブの画面

 国際部の特性上、韓国語サービスのある海外の国営・公営ラジオ番組を聴く機会がよくある。米政府系メディアのボイス・オブ・アメリカ(VOA)やラジオ自由アジア(RFA)、日本のNHK、台湾RTI、ベトナムVOV、英国BBCなどは韓国語の放送も行っている。ただし「日本の風」はその中でも特別だ。多くの番組が南北の住民を全て視聴者としているが、この番組は北朝鮮向けというスタンスを明確にしている。オープニングの言葉がなければ「朝鮮中央テレビジョン」のニュースかとつい思ってしまう。日本に定着している脱北民や転向した朝鮮総連系が司会を務めているのかもしれない。

 他の番組とは違い日本の風は1週間同じ内容を放送している。1970-80年代に北朝鮮に拉致された日本人拉致被害者関連が大きな比重を占め、非常に落ち着いた重い雰囲気だ。記者は最近この番組をこれまでとは違ったスタンスで聴いている。米国で第2次トランプ政権発足後、国務省で大きな改革が行われ、北朝鮮向けに長く番組を送り出してきたVOAやRFAは中断を余儀なくされた。また6月に発足した韓国の李在明(イ・ジェミョン)政権は非武装地帯の拡声器を撤去し、過去の左翼政権でさえ続けてきた韓国軍による北朝鮮向け放送までストップさせた。

 ただし同じく新内閣が発足した日本では「日本の風」は続いている。この番組が北朝鮮の家庭で受信された場合、その影響は計り知れないものになるだろう。自国を「北韓」ではなく「北朝鮮」と呼ぶ聞き慣れたアクセントにも心が引かれるはずだ。最新番組の内容はこうだ。高市早苗首相と木原稔官房長官が拉致の可能性を排除できない行方不明者の家族と対面したというニュース。また東京都内の日比谷公園で開催された「アメリカン・フェスティバル2025」で在日脱北民がホットドッグを味わったといったニュースが伝えられ、さらに1990年代のJポップも流された。

 クロージングはいつも同じだ。1978年に娘の曽我ひとみさんと同時に拉致され、2002年にひとみさんだけが帰国したため一人残された曽我ミヨシさん(93)ら12人の日本人拉致被害者の名前を一人ずつ読み上げ「必ず日本に連れ戻す」と誓う。この番組の日本語バージョンは「ふるさとの風」だ。全員が生きていたとしても、わずか12人のためだけの番組だ。

 「日本の風」は同じ課題を抱える韓国と日本のあまりに異なった対応を示している。李在明大統領は今月初めに外信記者団との会見で、北朝鮮に抑留されている6人についての質問に「初めて聞く話だ」と述べた。韓国統一部(省に相当)は1953年の休戦協定締結以来、北朝鮮に拉致された韓国人は彼らを含め522人と集計している。家族が待つ6・25戦時拉致被害者と未送還の韓国軍捕虜推定者まで含めると18万人を上回る。

 韓国で彼らの存在が忘れられつつある間も、玄界灘の向こうではわずか12人の拉致被害者を忘れず必死の努力を続けている。日本政府は今月13日、若い世代向けに日本人拉致被害者問題の概要、さらにこれを否定する北朝鮮の主張に反論する35分の動画をユーチューブに公開した。11月3日に「拉致被害者家族会」や「救う会」などの主催で開催された「全拉致被害者の一括帰国を求める国民大集会」には高市早苗首相や木原稔官房長官も出席した。日本の風は列島の内外で今も力強く吹いているのだ。

 李在明大統領が対話を呼びかけている北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記は今年8月、ロシアによるウクライナ侵攻に派兵され戦死した北朝鮮軍兵士をたたえ遺族を慰めた。自分が送らなければ間違いなく生きていた若者たちだ。このニュースでは国の存在理由とトップの役割を考えざるを得ないが、それでも希望を捨てない「日本の風」は今日も北朝鮮の夜空に響いている。

鄭智燮(チョン・ジソプ)記者

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