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 陸上競技男子100メートルで世界的にも一つの通過点とされる10秒の壁を突破した選手が東南アジアから登場した。「タイのウサイン・ボルト」と呼ばれる19歳のプリポン・ブーンソン選手が12月11日、タイのバンコクで開催された陸上の東南アジア競技大会(SEA)で9秒94をたたきだした。中国では2015年に蘇炳添(36)、日本では17年に桐生祥秀(30)が初めて9秒台を出したが、陸上競技不毛の地とされる東南アジアでも100メートル9秒台が出た。ちなみに韓国では17年に金国栄(キム・グクヨン)が出した10秒07が最高記録だ。

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■ブーンソンの9秒94はアジア歴代3位

 ブーンソンがSEA男子100メートル予選で記録した9秒94はアジア歴代3位だ。アジアでこれを上回る記録は蘇炳添の9秒83とカタールの帰化選手フェミ・オグノデの9秒91のみだ。今年アジアで100メートル9秒台を記録したのは桐生祥秀の9秒99のみだったが、これを0.05秒上回る今回のブーンソンのタイムは今シーズン最高記録だ。世界陸上連盟によると、9秒94は20歳以下の選手としては世界で共同5位となる記録だという。ブーンソンは同日行われた決勝でも10秒00の好タイムで金メダルを獲得した。ブーンソンは男子200メートルでも20秒07で金メダル、400メートルリレーでも38秒28で金メダルを獲得し男子短距離種目三冠を達成した。

 さらに特筆すべきはブーンソンは今19歳と最も将来が期待される世代という事実だ。ブーンソンは15歳だった2021年から同大会ですでに三冠王となり、早くから「短距離の天才」と呼ばれてきた。23年9月の杭州アジア大会男子100メートル準決勝では、米国のクリスチャン・ミラーが持つ18歳以下世界記録と同タイムの10秒06を記録し世界の陸上界を驚かせた。ただしこの記録は今年7月に日本の高校生・清水空跳(16)に破られた。1000分の1秒まで計測されたタイムで清水の記録は9秒995だった。日本では「最強の桐生を上回る恐ろしい選手が現れた」と大きく報じられた。

 男子100メートルが正式に公認されたのは1912年のオリンピック・ストックホルム大会からだ。その後60年代まで10秒の壁は人間の限界とされてきたが、68年のメキシコ大会で米国のジム・ハインズが初めて9秒95を出し、歴史上初めて10秒の壁が破られた。その後50年以上の間に10秒を切った選手は世界で200人以上出たが、アジアではわずか17人だ。世界記録は2009年にベルリンで開催された世界陸上でジャマイカのウサイン・ボルトが出した9秒58だ。

■10秒07で精いっぱいの韓国陸上界

 男子100メートルの韓国記録は見る影もない。2017年に江原道旌善で開催された「コリア・オープン国際陸上競技大会」で金国栄が出した10秒07が最高で、その後はこれに近づく選手も出ていない。先日現役を引退し韓国代表チームのコーチとなった金国栄は「タイで9秒台が出たことで後輩たちには危機感を持ってほしい」「私の記録を目標にせず、アジア・トップクラスを上回る目標を持って走るべきだ」とげきを飛ばした。

 ただ韓国にも希望はある。ナイジェリア人の父と韓国人の母の間に生まれたナマディ・ジョエル・ジン(19)が昨年高校生ながら10秒30の好タイムを出し、今年から醴泉郡庁の陸上チームに入りトレーニングを続けている。一方で専門家は「個人の才能に頼るのではなく、優れたコーチによる計画的なトレーニング、スポーツ科学、国際大会での経験など全てが必要だ」とアドバイスする。

 タイのブーンソンも歴史的な記録を出すには周囲の支援が欠かせなかった。タイ陸上協会(AAT)はSEAに向け、米国のジェントリー・ブラッドリー氏をコーチに迎え代表チームの強化に取り組んだ。ブラッドリー氏は1998年の全米屋外陸上競技大会男子200メートルで優勝した経歴を持つ。ブラッドリー氏はブーンソンの弱みとされたスタート時と前半の加速を向上させるため60メートル走を繰り返し行わせたという。ブーンソンはSEAで10秒の壁を破った直後「3-4カ月前にやって来た外国人コーチとのトレーニングが大きなプラスになった。新しいコーチの指導で特に筋トレに力を入れたことが良かった」とコメントしている。タイのメディアによると、ブラッドリー氏はブーンソンに走り方はもちろん、筋力強化や大会直前のコンディション調整などあらゆる面でアドバイスを行ったという。

ヤン・スンス記者

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