裁判
懲役10年求刑された被告人・尹錫悦が特別検察官の主張を1時間真っ向反論、その内容とは
尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領が、昨年の12・3非常戒厳を宣布した原因は巨大野党にある、と主張した。
尹・前大統領は26日、ソウル中央地裁刑事35部(裁判長:白大鉉〈ペク・テヒョン〉部長判事)の審理で開かれた特殊公務執行妨害等事件の結審公判で1時間にわたって最終陳述を行い、このように語った。尹・前大統領は「国民の目を覚まし、国民に、政治と国政に無関心でいるのではなくどうか立ち上がって関心を持ち、批判もしてほしいと言うほかない状況だった」と語った。過半数の議席を占める進歩(革新)系の「共に民主党」が、大統領就任当初から事あるごとに国政において足を引っ張り、正常な統治が難しく、これに対する世論の喚起のために戒厳を宣布するしかなかった―という主張だ。
【早わかり】12・3非常戒厳日誌
尹・前大統領は「秩序維持の観点から国会に最小限の軍兵力を送り、国家情報院(韓国の情報機関。国情院)で是正を勧告した中央選挙管理委員会のサーバー・セキュリティー・システムを確認するため軍兵力を送った」と主張した。非常戒厳宣布前の国務会議(閣議)の際に国務委員(閣僚)の審議権を妨害した、という容疑に関しては「平常時の国務会議のように(国務委員に)みんな入れと話していないことは、犯罪にはなり得ない」「私は国務委員13人を呼んだ。残る8人について審議権が妨害されたというのが特検の主張だが、19-20人呼んでいたら、残りの1人2人について審議権の侵害になるのか」と反論した。国務会議の議決定足数を満たそうとして一部の委員だけを招集したわけではない、という主張だ。
戒厳解除後、姜義求(カン・ウィグ)元大統領室付属室長が作った事後宣布文にいったん署名してから、後に廃棄を承認した―とする容疑に関して、尹・前大統領は「こういう種類の公文書が韓国に存在するのかと思う」と、容疑を否認した。国防部(省に相当)が作成すべき戒厳宣布文を付属室長が作ること自体が疑問、というわけだ。また、戒厳解除後に作られた文書に韓悳洙(ハン・ドクス)前首相、金竜顕(キム・ヨンヒョン)元国防部長官が後から副署した、という特検の主張に対しても「事前副署は保安のためにできないということを、憲法裁判所の弾劾審判時に既に申し上げた」と述べた。
尹・前大統領は、郭種根(クァク・チョングン)元特殊戦司令官、呂寅兄(ヨ・インヒョン)元国軍防諜(ぼうちょう)司令官、李鎮雨(イ・ジンウ)元首都防衛司令官など戒厳軍指揮部の秘話フォン(盗聴防止機能付き携帯電話)関連資料をサーバーから削除せよと指示した疑いも持たれている。これに関して尹・前大統領は「そういう指示をしたことがないだけでなく、当時、職を辞めたおよそ10人の秘話フォンを大統領警護処が回収するか、回収できない場合はメディアで関連資料が報じられないようにしなければならない、と考えただけ」と語った。尹・前大統領は、当該秘話フォンを既に捜査機関が確保していたら画面写真などを撮っておいたはずであって、後から削除を指示したというのはコメディーのような話だ、とも述べた。
高位公職者犯罪捜査処(公捜処)の逮捕状執行の試みを妨害したという容疑に関しては「公捜処が刑事訴訟法110条を例外とする逮捕状の発布を受けたのを見て、驚愕(きょうがく)を禁じ得なかった」と語った。刑事訴訟法110条は「軍事上の秘密を要する場所は責任者の承諾なしに押収または捜索できない」と定めている。ところが公捜処は、例外条項を根拠として、今年1月3日に軍事施設保護区域である大統領官邸で尹・前大統領の逮捕を試みた。
その上で尹・前大統領は、公捜処の内乱首謀者容疑に関する捜査が違法だと主張した。職権乱用容疑を捜査していて内乱罪を認知したという公捜処の主張に対し、尹・前大統領は「(内乱・外患罪を除く容疑で)現職大統領に対する訴追権がないというのは、捜査もまたできないという意味」だとし「退任するまで起訴を中止しておくべきだった」と述べた。さらに「内乱は世間の皆が知っていることだが、メディアでも全て報道された事案を『認知した』というのはお笑い」と語った。
「帝王的大統領制のけん制システムに従わなかった」という特検の主張に関しても、尹・前大統領は「帝王的大統領というものはない」と反論した。帝王的大統領としての権力が強大だったのであれば、巨大野党に足を引っ張られるようなことはなかったはず、というわけだ。尹・前大統領は「戒厳を解除したにもかかわらず、内乱の押し付けをやって官邸に押しかけて入ってくるのを見たではないか」「どれほど大統領を軽く見ていたのか」と語った。
また、「来年1月18日が勾留満期だからといって、家に帰ろうとはほとんど考えていない。妻も勾留されており、自分が家に戻って何をするのか」と尹・前大統領。さらに「内乱容疑事件について追加の証拠を出したらそれについて審理を行った後に、締めくくっていただきたく、お願い申し上げる」「裁判部で善処していただきたく要請を申し上げる」と語った。
尹・前大統領の弁護人団はこの日、特検の懲役10年の求刑について「法的・事実的根拠が極めて弱く、政治的な構図に従った過度な求刑」だと反論した。弁護人団は「尹・前大統領は捜査と裁判の全ての過程で、自分の判断と行為が憲法と法律の範囲内にあったことを一貫して説明してきた」「『反省がない』という表現でレッテル貼りをするのは、事実上有罪を前提とした世論裁判に過ぎない」と批判した。
裁判部は来年1月16日に判決公判を開く。ただし裁判部は、尹・前大統領側で追加証拠を提出する場合、これを検討して弁論を再開するかどうか決定したい、とも表明した。
イ・ミンジュン記者