コラム
国民の生命に価格表、非情な共に民主党式政治【朝鮮日報コラム】
クーデターに等しい大庄洞控訴放棄発表の時にすでに経験したため、西海公務員殺害事件の控訴放棄もさほど驚くことはなかった。しかし自らのアイデンティティーまで否定する現政権のずうずうしい態度には今もショックが収まらない。李在明(イ・ジェミョン)政権は発足直後から「生命尊重」を訴えてきた。例えば就任2日目に李在明大統領は「国民の生命と安全を守ることは国の最も大きな存在理由だ」と述べ、「国民保護」を最優先の価値とし、機会があるたびに「国の無関心、不注意で国民が命を失うようなことは絶対にないようにしたい」との考えを示してきた。
【図】務安空港事故 「コンクリート製盛り土」に関する報告書の内容
西海事件はまさに「国の無関心、不注意」が原因で1人の国民が命を失った事件だった。2020年に当時の文在寅(ムン・ジェイン)政権は西海公務員が北朝鮮の海域にいた事実を知りながら、救助などの行動は一切取らなかった。関係者が事件の真相を隠蔽(いんぺい)しようとした証拠も見つかった。ところが李在明大統領は事実上、控訴の自制を求め、検察は重要容疑のほとんどについて控訴を放棄したため真相解明の道は閉ざされた。責任者の処罰も止められた。これがなぜ「国民の生命が第1の国の存在理由」と公言する政府で起こるのか。
同じ1人の犠牲だが、海兵隊員事件では対応が全く違った。共に民主党は特別検事を任命し、150日にわたり捜査を行い、それでも足りず2回目の特別検事任命まで強行した。海兵隊員の悲劇は心から残念に思うが、西海公務員はそれ以上に深刻な国の怠慢により一層残酷な犠牲となった。文在寅政権はなぜ救出を怠ったのか、なぜ自ら越北したと断定したのか、国家情報院や国防部(省に相当)はなぜ5000件以上の文書を削除したのか、次から次へと出てくる疑問は全く解消されていない。しかし真実は隠され疑惑は消し去られつつある。西海公務員は韓国国民ではなかったのか。
現政権の関係者には本来そんな人間はいないはずだ。共に民主党の「真相執着症」は行き過ぎどころか狂信的でさえある。何か事故が発生すれば背後に何があったか執拗(しつよう)に追及し、また珍しい陰謀論を訴えてありとあらゆる形の調査や捜査、数々の委員会や聴聞会を力ずくで開催するのが共に民主党とその周辺勢力だった。
2014年のセウォル号沈没事故の際に共に民主党は特別調査委員会を立ち上げ2年近くかけて真相解明に取り組んだ。文在寅政権発足後は「社会的惨事調査特別委員会」を設置し3年以上かけて調査を行い、さらに検察の特別捜査チームに加え特別検事まで任命した。このように特別調査委員会、社会的惨事調査特別委員会、特別捜査チーム、特別検事が合計8年かけて事細かに原因究明を行ったが、新たに出てきた内容は特になかった。
2022年の梨泰院雑踏事故でも共に民主党は事故から5日後に国政調査計画を発表し、55日にわたり国会特別委員会を開いた。142億ウォン(約15億円)という巨額の予算を委員会につけ、すでに終了した捜査は不十分として改めて捜査を行う合同捜査チームまで発足させた。14人が犠牲になった五松地下車道浸水事故も共に民主党を中心に国政調査が行われた。労働災害関連の事故が発生するたびに李在明大統領は「怒り」をあらわにして「責任者厳罰」を指示してきた。ところが西海公務員事件だけは例外だ。現政権は「生命尊重」を掲げるが、実は対象となる国民によってその対応は変わるのだ。
さらに理解し難いミステリーは務安空港事故だ。航空機の墜落で179人が犠牲になるという、韓国の航空会社が起こした過去最大規模の事故だ。航空機が衝突した滑走路先端の盛り土は規定に反して設置された可能性が浮上している。衝撃を吸収する材質ではなく堅固なコンクリート製で、その高さも規定より高かった事実が明らかになった。大規模事故につながりかねない危険な施設だったが、空港を管轄する国土交通部はこれを放置したため、国の不注意で起こった人災であることは間違いない。
航空機のエンジンが止まった原因もはっきりしない。国土交通部事故調査委員会はパイロットのミスの可能性が高いとしているが、6800時間の経歴を持つベテランパイロットがこんな初歩的なミスを犯したという説明はにわかに納得し難い。事故原因は文字通り迷宮入りしつつあるが、だとすれば共に民主党がじっとしているはずがなく、「真相解明だ」「特別検事だ」と大騒ぎするのがこれまでなら当然だった。
しかしどういうわけか共に民主党に目立った動きはない。159人が犠牲になった梨泰院雑踏事故であれほど興奮していた共に民主党だが、犠牲者数も、政府の過失もはるかに深刻な務安空港事故には一貫して消極的で、野党の度重なる要求を受けやっと国政調査に応じただけだ。事故から1年が過ぎて資料の公開もゼロ、責任者の逮捕も0人だ。遺族の代表は「国は1回もまともに回答していない」と泣きながら訴えている。それでも李在明大統領は遺族に「(国土交通部独自の)調査結果から先に確認を」としか語らないなど、李在明大統領の通常のスタイルとは全く異なっている。
このように共に民主党政権が対応に消極的な事件には、「政治的に自分たちにとって不利になる」という共通点がある。「唐辛子を乾燥させる滑走路」と皮肉られた務安空港は金大中(キム・デジュン)政権当時、湖南(全羅南北道)政界の要求を受け建設された。事故の直接の原因となったコンクリート製の盛り土は盧武鉉(ノ・ムヒョン)・文在寅政権が放置した証拠が浮上している。西海事件も文在寅政権による親北路線が問題の本質にある。真相が解明されるほど自分たちに不利だと計算しているのだ。
国の不注意で犠牲になった国民は死後も差別され見捨てられている。国民の命さえ得と失を計算し「価格表」をつける共に民主党式の政治はあまりに非情ではないか。
朴正薫(パク・チョンフン)論説室長