西海公務員射殺隠蔽(いんぺい)事件の一審判決文は、当時韓国政府が国民の命をどのように扱ったかを示してくれている。2020年9月22日、北朝鮮軍が西海で漂流していた韓国の公務員を発見し、射殺した後、遺体の焼却まで行った事実を、韓国政府は特殊情報を通して知っていた。ところが2日間も国民に隠していた。メディアの報道に対する「保安調査」も指示した。北の蛮行を知りつつも、殺された公務員を探すふりをして大規模な捜索ショーまで繰り広げた。23日の「事件の影響に関する報告書」には「公開したら南北関係が行き詰まる」と書いてあった。

【表】政権次第で変わる結論 西海公務員射殺隠蔽事件

 韓国政府が当時把握していた北朝鮮軍内部の交信は「早く7.62ミリ(機関銃)で射殺しろと言ってる」だった。射殺という上部の指示を受けた、という意味だ。それにもかかわらず、当時の国家情報院(韓国の情報機関。国情院)トップは「金正恩(キム・ジョンウン)が指示したわけではなく、現場の判断に基づくもの」だと言った。また、北朝鮮軍は「これから燃油(ガソリン)をまいて(焼却)する」と言った。韓国軍は炎の明かりも確認した。だが、北が「射殺はしたが焼いてはいない」と言うと、遺体を探すと称して捜索範囲を拡大した。韓国国民が既に射殺、焼却されたことを知っていても、北朝鮮指揮部に責任が帰さないようにしようと、韓国国民をだましたわけだ。

 文在寅(ムン・ジェイン)政権は、殺害された公務員を、自ら北に渡った「越北」だとして追い立てた。根拠は「越北に言及した」「救命胴衣を着ていた」くらいだった。消えた救命胴衣はない、という乗組員の証言や、公務員が「北朝鮮」を検索したり言及したりしたことは一度もない、という捜査内容は無視した。疲れ果てた公務員は「助けてください」と言ったが、北朝鮮軍は「引っ張っているが、何度も(海に)沈む」と交信していた。極限の状況で生きるために「越北」の単語を使ったという可能性も無視した。

 判決文を通して、韓国軍の合同参謀本部(合参)が、当初「失踪推測時間帯の潮流は北から南に流れており、越北の可能性は低いと評価」と言っていた事実も判明した。その後、当時の文大統領は「国防部(省に相当)の発表が断定的」「遺体を焼く蛮行を確認したという表現を使ったが、断言できるのか」と言った。事実上、叱責(しっせき)したのだ。その後、海洋警察(海警)は捜査チームの反対にもかかわらず「越北で間違いない」と押し付けた。

 それでも、事件の容疑者5人は全員が一審で無罪になった。「相手が北朝鮮だから明白な証拠がない」という理由が大きかった。殺害された公務員の息子は、文大統領に「父が残忍に殺されたとき、この国は何をしていたのか」という手紙を書いた。当時、大統領は寝ていて、翌日ようやく報告を受けた。この人々にとっては、国民の生死の問題より「南北関係」の方が重要だった。遺族は「特別検察官(特検)をやってほしい」と訴えている。現在も進歩(革新)系の「共に民主党」の政権なので、特検でなければ真実を明らかにすることはできないだろう。

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