1999年、スターバックスの韓国第1号店が梨花女子大学前にオープンした。見慣れぬ外資系コーヒー専門店はすぐに「虚栄」や「ぜいたく」の象徴と見なされ、数年後にはスターバックスに行く女性を「テンジャン女(韓国みそ女=見えっ張りでブランド好きな女)」と嘲弄(ちょうろう)する風潮へと広がった。2004年、韓国の名門・高麗大学のキャンパス内にスターバックスができると、学生たちの間で「米国の消費主義文化の象徴を民族史学の中に受け入れることはできない」という批判と共に騒動となり、反対集会や署名運動が相次いだ。 定食が4000-5000ウォン(現在のレートで約430-530円)だった時代、スターバックスは大学が資本と消費文化に蚕食される象徴のように見なされていた。

【写真】スタバの前でタンブラーを破壊する市民たち

 今振り返ってみると滑稽な光景だ。当時、出店に反対した学生たちは今でもスターバックスのコーヒーを拒否しているのだろうか。学校以外の店なら構わないのだろうか。たった1杯のコーヒーに時代の精神をあまりにも過度に負わせすぎた、と今は思う。

 そのスターバックスが再び政治的な論争の渦中に断たされている。スターバックス・コリアは1980年の光州民主化運動(光州事件)発生日である5月18日に「タンク(戦車)デー」という販促キャンペーン・イベントを実施した。その広報物には「机をバン!」というキャッチコピー(宣伝文句)も入っていた。これを受けて、光州民主化運動や1987年の学生運動家・朴鍾哲(パク・ジョンチョル)氏拷問致死事件を見下しているという批判の声が広がった。光州民主化運動では韓国陸軍の戦車がデモをする市民を制圧し、多数の死傷者が出た。「机をバンとたたいたら、ウッと言って死んだ」は拷問致死事件時の警察の発言だ。26日にはとうとう、スターバックス・コリアの大株主で韓国流通大手・新世界グループの鄭溶鎮(チョン・ヨンジン)会長が謝罪し、「故意に企画されたという状況は確認できなかった」と述べた。イベント実施日や宣伝文句を考えると、スターバックスの無神経さは見過ごせるものではない。民主化運動の傷痕を忘れていない市民は怒り、消費者としては不買運動をするという選択も可能だ。

 しかし、「低質な商売人の非人間的で行き当たりばったりの行為に怒りを覚える」という李在明(イ・ジェミョン)大統領の公開叱責(しっせき)後、政府部処(省庁)が加勢して企業に圧力をかけている姿は懸念される。行政安全部(省)、国家報勲部、国防部、法務部、保健福祉部などは相次いでスターバックス商品の使用中止や購入歴チェック、協力事業の中止に着手した。宋美玲(ソン・ミリョン)農林畜産食品長官は25日、動画共有サイト「ユーチューブ」のチャンネルに出演し、「このような機会に、韓国産農作物・農産物のお茶をたくさん飲んでいただければと思います」と語った。

 公共機関が税金で購入する物品を点検したり、協力事業を再検討したりすることはあり得る。しかし、長官たちが公に距離を置き、代わりになる飲み物の消費まで勧めるのであれば、それは原則に基づいた行政ではない。権力を動員した消費者運動の方に近いように思える。

 こうした言動は、韓国政府自らが困難な基準を作ることにもなる。企業の宣伝文句に過ちがあるたびに取引や購入を中止し、国民に不買運動のゴーサインを発信するのだろうか。どの程度の過ちに対して、どれだけの制裁を行うのか。激怒している世論に政府が便乗すれば、当面は気分がスッキリするかもしれないが、国家行政の中立性と原則はその分だけ曇ってしまう。

 韓国政府がすべきことは、国民にどのコーヒーを買うのをやめて、どのお茶を飲むかを勧めることではない。責任は問うても、法と手続きの範囲内にとどめ、消費の判断は市民に委ねるべきだ。コーヒーのブランドまで問題視する、行き過ぎた政治は少なからぬ副作用を引き起こす恐れがある。そのような経験はかつて大学で起きていた騒動だけで十分だ。

郭来乾(クァク・レゴン)記者

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