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 ニューヨーク・ブルックリンでストリップダンサーをしながら暮らすアノーラがロシア人の新興財閥の御曹司と衝動的に結婚したため、ロシアの両親があらゆる手段を動員して結婚を阻止する過程を描いたブラックコメディー映画『ANORA アノーラ』は、昨年3月の第97回米アカデミー賞で5部門を受賞した。さらに、前年の第77回カンヌ国際映画祭でも最高賞を受賞している。ショーン・ベイカー監督は受賞スピーチで「この賞をセックスワーカーのコミュニティーにささげる」とし「セックスワークは一つのキャリアであり職業であり、尊重されるべきだ。犯罪化したり、いかなる形であれ規制したりしてはならない」と述べた。

 今年、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のジェンダー学の講義では、売春を「エロチックレイバー」と表現している。2022年2月、米ケーブルチャンネルHBOのある有名なコメディアン司会者は「性労働は議論の余地なく労働だ。他の職業に就くのと同じ理由で人々はその仕事をする」とし、サンドイッチを作るのと売春は同等の職業だと主張した。

 米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は5月21日、「売春も自由に選択でき、保護されるべき女性の権利であり労働であるというのが、米国の文化的左派陣営の新たなマントラ(mantra、聖なる言葉)となった」と報じた。

 彼らは売買春を行う女性を「娼婦」や「売春婦」といった軽蔑的な言葉や、「高級コールガール」のような婉曲(えんきょく)表現で呼ぶことを避ける。これらの女性は単に「セックスワーカー(sex workers)」であり、他の職業従事者と同様に自由市場経済の一参加者であるというのだ。

 映画『アノーラ』が各賞を総なめにした際、米国のコメディアン、ビル・マーは「娼婦たちが全盛期を迎えた」と述べた。しかし、文化的左派は売春を恥ずべきものであり、女性蔑視的で男性中心の抑圧的搾取であるという主張に対し「道徳的な過剰反応」として無視する。性労働と女性の中絶権、人権、LGBTQ+トランスジェンダーの権利、広範な労働組合活動は、互いに切り離せないものということだ。

 左派だからといって、全員が「性労働も労働だ」という主張に賛成しているわけではない。しかし、この進歩的な文化的左派は、売春に否定的な左派の女性人権論者たちを「原理主義的フェミニスト」と見なしている。

 伝統的な進歩主義者やフェミニスト、人身売買反対団体は皆、売春を本質的に抑圧的なシステムであり、金と権力を持つ男性たちが社会で最も脆弱(ぜいじゃく)な人々を搾取するもう一つの方法だと見なしている。性犯罪者ジェフリー・エプスタインが女性の性を搾取した代表的な事例であった。

 2018年、第1期目のトランプ大統領が署名した、インターネットプラットフォームによる売春のあっせんや人身売買の助長を禁止する法案「FOSTA-SESTA」が、連邦上下両院で超党派のほぼ満場一致で可決されたのもこうした文脈によるものだった。反対した少数派は、インターネット上の「表現の自由」が制限されることを懸念していた。

 米国の伝統的な左派・女性団体は、売春婦を犯罪者ではなく被害者と見なし、法執行を強化して売春の需要を減らすことを目標としている。売春は家庭内暴力・セクハラ・強姦(ごうかん)と同様に、男性の権力に深く根ざした虐待犯罪行為であると見なしている。

 これとは対照的に、急進的な文化的左派は、セックスワーカーを「先駆者(trailblazer)」と見なす。「セックスワーク」は、女性が自己決定権を実現するもう一つの職業である。従って、「完全な非犯罪化」を主張する。性行為の売買を規制する全ての法律を廃止すべきだというのだ。

 自らをこの業界のベテランと呼ぶケイトリン・ベイリー(39)は、17歳高校生の頃から高級コールガールとして働き、20代は年上の裕福な男性と関係を持ち、経済的支援を受けていた。彼女は最近、自身のポッドキャストで「フェミニズム運動が始まって以来、白人・中産階級が大部分を占める女性集団が, 男性中心の宗教的・保守的な団体と結託し、他の女性たちの(性労働という)選択を統制しようとしてきた」と述べ、完全な非犯罪化を主張した。

 WSJは、ベイリーのような主張が1973年のCOYOTE(Call Off Your Old Tired Ethics・古くて退屈な道徳観は捨てろ)という急進的な運動から始まり、1980年代のフェミニズム内部でのいわゆる「セックスウォーズ(性戦争)」を経て、最近ではより広範な文化的影響力を得るようになったと報じた。

 続いて、米国内の代表的な人権団体であるヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)、アメリカ自由人権協会(ACLU)、中絶の権利を主張するプランド・ペアレントフッド(Planned Parenthood)、国連機関である世界保健機関(WHO)に至るまで、この急進左派の主張に同調し始めた。

 2022年までの30年間、HRW事務局長を務めたケネス・ロス氏は「誰もが貧困の撲滅を望んでいるのに、なぜ貧しい女性たちには自発的な性労働という選択権を否定するのか」「人権の本質は、個人が自らの選択をする権利を尊重することであり、性労働者は性労働を選択できるべきだ」とWSJに語った。

 国際人権団体である「アムネスティ・インターナショナル」も方針を変更し、性労働を「成人間の自発的な売春は原則として合意に基づく行為」と規定した。

 2019年4月、10代後半~20代前半の女性を対象とした雑誌『ティーン・ボーグ(Teen Vogue)』は「なぜ性労働は真の労働なのか」という記事を掲載した。その中で、急進左派陣営は売春の非犯罪化に反対した映画女優のケイト・ウィンスレット、アン・ハサウェイ、エッセイスト兼プロデューサーのレナ・ダナムらを批判した。

 性労働を完全に非犯罪化しようという主張は、米国で極めて進歩的な傾向にあるとされるフォード財団、オープン・ソサエティー財団、オーク財団やジェフ・ベゾスと離婚したマッケンジー・スコットらから多額の支援を受けている。WSJは、「完全な非犯罪化」モデルは、警察力の縮小や収監者数の減少を図る左派運動、マリファナ合法化運動とも結び付いていると報じた。

 興味深いことに、売春を合法化しようという主張には、伝統的な左派も急進的な左派も、いずれも反対しているという。伝統的な左派フェミニストたちは、合法化すれば女性の搾取がかえって正常な現象になりかねないと判断し、反対している。急進的な左派は、合法化を通じて登録・健康診断の義務化、店舗や地域の制限、税金・免許の賦課などの規制が入り、自由な取引が制限されると見ている。

 米国全体としては、売春は依然として違法である。むしろ近年、売買春の需要を抑制するため、多くの州で初犯から重罪として扱ったり、買春者への処罰を強化したりしている。

 非犯罪化を主張する側は、自由な取引が行われれば、アクセスが容易になり、人身売買の事例も減少すると主張する。

 現実はそうではなかった。WSJは2002年に売春を合法化したドイツの場合、性産業がはるかに拡大し、店舗型売春が増加してベルリンだけで500以上の売春店ができたと報じた。1日100万人の男性が性サービスを購入し、世界中から性観光目的の観光客が殺到したことで、人身売買の事例も増えたという。

イ・チョルミン記者

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