「お前のメシはお食事で、我々のメシはエサか」
仏国寺の青雲橋・白雲橋をかたどった国立民俗博物館(ソウル市鍾路区)の石段のあちこちに11月18日、このような文章が書かれた全国民主労働組合総連盟(民労総)の横断幕が掲げられていた。この石段は入場者たちの写真撮影スポットだ。この日、6歳の息子と一緒にやって来た入場者ユンさん(37)は石段の前であちこち向きを変え、横断幕を避けて写真を撮ろうとしたが、「だ..
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「お前のメシはお食事で、我々のメシはエサか」
仏国寺の青雲橋・白雲橋をかたどった国立民俗博物館(ソウル市鍾路区)の石段のあちこちに11月18日、このような文章が書かれた全国民主労働組合総連盟(民労総)の横断幕が掲げられていた。この石段は入場者たちの写真撮影スポットだ。この日、6歳の息子と一緒にやって来た入場者ユンさん(37)は石段の前であちこち向きを変え、横断幕を避けて写真を撮ろうとしたが、「だめね」とあきらめた。このような横断幕は昨年8月にも1カ月間掲げられた。写真共有ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)「インスタグラム」内を検索すると、当時韓国に来ていた外国人がこの石段を背景に撮影した写真にも横断幕がそのまま写っている。その写真に「(ドラマ)『宮廷女官チャングムの誓い』を思い出す」など韓国旅行の感想が書いてある。博物館側は「入場者にとっては不便でも、私共としては為す術がない。労働組合が自分の職場に横断幕を出すのは『合法的労組広報活動』なので、強制撤去は難しい」と話す。
険悪な言葉ばかり書かれている横断幕が大韓民国のあちこちに掲げられている。観光地だけでなく、レジャー施設の入り口や大企業本社前、あるいは住宅街にも、さまざまな横断幕が毎日新たに張られている。「横断幕共和国」という言葉まである。「横断幕を出すのは簡単に、取り外すのは難しく」作られている法律や制度、労働組合などの集団との摩擦を避けようとする管理当局の「事なかれ主義」が複合的に作用した結果だと指摘されている。
仁川市松島国際都市のジャック・ニクラウス・ゴルフ場正門前の道には、今年初めから同ゴルフ場を解雇された人々がスピーカーを持ち出して毎日デモをしている。ゴルフ場がサービス業者を交代したことから解雇された人々だ。彼らが同ゴルフ場の入り口に張り出した横断幕は100枚を超える。
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問題は横断幕だけではない。デモ隊のスピーカーから流れてくる騒音の方が問題だ。警察が測定したこのデモの最も大きな騒音は90㏈。列車が25メートル離れた所を通り過ぎる際に聞こえる音と同じ大きさだ。このゴルフ場の15番ホールや11番ホールのティーボックスに立つと、デモ現場の騒々しい民衆歌謡曲やスローガンがそのまま聞こえる。デモ現場からティーボックスまでの直線距離は15番ホールで30メートル、11番ホールで50メートルしかないからだ。
利用客のパクさん(50代)は「集会の騒音でティーショットに集中できなかったことは一度や二度ではない。労働者たちも事情があるだろうが、何の罪もない客に被害を与えてはならないのでは」と語った。同ゴルフ場関係者は「警察に通報してもその時だけ。警察が帰るとまた大きな音がする」と言った。
サムスン物産が運営する安養カントリークラブ(京畿道軍浦市)では、正門を通ってクラブハウスに向かう途中、道の両側に長さ8メートルという特大の横断幕が次々と見えてくる。李在鎔(イ・ジェヨン)サムスン電子副会長の写真と共に「犯罪者」「労組破壊組織犯罪実刑」などと書かれている。今年2月ごろ、民労総が張り出したものだ。ゴルフ場に来るすべての利用者がこの横断幕を見る。利用客のムンさん(31)は「気持ちよく遊ぼうと思って来たのに、横断幕を見て不快になった」と話した。この横断幕も民俗博物館同様、「労組が所属の職場に張り出したもの」という理由で、会社側がむやみに取り外すことはできない。
法的に争う余地がないわけではない。慶北大学法学専門大学院のイ・ダルヒュ教授(労働法専攻)は「横断幕をほかの場所に掲示することができるのに、あえて施設運営に支障を来す所に張り出したのなら、正当な組合活動にはならない」と話す。だが、企業側は「労組などごねる相手に勝ったところで、もっとひどい方法をやってくるのが目に見えているので、実益がない」と語った。
事実、その通りだ。現代・起亜自動車のケースがその代表例だろう。現代自動車はソウル市瑞草区にある本社入口で7年間にわたり横断幕数十枚を張り出して葬送曲を流し続けデモをしてきた人物を相手取り、昨年訴訟を起こした。ソウル中央地裁は訴訟を起こしてから約1年後の今年9月18日、「デモの内容と葬送曲は何の関連性もない」「横断幕の内容も会社の名誉を毀損(きそん)する」として現代自動車の主張を認めた。ところが、この人物に言い渡された損害賠償金は1000万ウォン(約94万円)で、現代自動車側が支出した弁護士費用にも満たない。しかも、この人物は控訴して二審が始まった。さらに、2カ月過ぎた今も横断幕とスピーカーによるデモは続いている。横断幕の内容が変わり、葬送曲が民衆歌謡曲に変わっただけだ。
現行法上、デモ用横断幕は「集会・デモのための道具」として認められており、許可されている。警察に集会申告した場所に30日間掲示することが可能だ。枚数制限もない。10枚でも100枚でも張り出していい。だが、実際にはデモ参加者がいなくて横断幕だけ張り出されるケースが多い。
先月20日昼12時30分ごろ、ソウル市鍾路区の「慶熙宮xiマンション」裏の道路には、「ソウル学校非正規職連帯会議」という団体の横断幕が14枚張り出されていた。ターゲットはマンションの向かい側にあるソウル市教育庁だ。横断幕の周辺にはデモ参加者が1人もいなかった。同日、ソウル市松坡区のソウル東部地検裏問前にも「(自殺した後、セクハラ〈性的嫌がらせ〉問題が浮上した朴元淳〈パク・ウォンスン〉ソウル前市長を擁護した女性検事)チン・ヘウォンは風俗法違反」などの横断幕が掲げられていたが、デモ隊は見当たらなかった。
横断幕のひぼうの対象になっているからと勝手に横断幕をはがすと犯罪者になる。器物損壊や窃盗などの罪が適用される。
ペ・ビョンイル元法学教授会会長は「集会・表現の自由や労働組合の争議権も重要だが、そうした権利が他人に被害を与え、他人の権利を制限・侵害するケースまで無期限に容認されているわけではない」と話す。
警察関係者は「集会・デモが行われている時間だけ許可するなど、関連法令の補完が必要だ」と語った。法務法人「オンダム」のソ・ビョンウク弁護士は「デモ用横断幕の掲示に関する制限規定を設け、違反時には横断幕により被害を受けた側が強制撤去などを申請できる救済手続きを整えるべきだ」と述べた。
アン・ヨン記者、キム・ヨンジュン記者、高錫泰(コ・ソクテ)記者
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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