▲グラフィック=ヤン・インソン
韓国軍検察当局は今年5月、8万8000元(約179万円)の報酬を受け取り、韓米合同演習関連の文書と担当者の連絡先などを中国人民解放軍の情報組織に流出させたとして、韓国陸軍の兵長A容疑者を逮捕、起訴した。その後、軍検察当局が野党国民の力の姜大植(カン・デシク)国会議員に提出した起訴状によると、A兵長は2003年に中国で生まれ、人生の大半を北京で過ごしていた事実が明らかになった。
韓国人の父親と中国..
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▲グラフィック=ヤン・インソン
韓国軍検察当局は今年5月、8万8000元(約179万円)の報酬を受け取り、韓米合同演習関連の文書と担当者の連絡先などを中国人民解放軍の情報組織に流出させたとして、韓国陸軍の兵長A容疑者を逮捕、起訴した。その後、軍検察当局が野党国民の力の姜大植(カン・デシク)国会議員に提出した起訴状によると、A兵長は2003年に中国で生まれ、人生の大半を北京で過ごしていた事実が明らかになった。
韓国人の父親と中国人の母親を持つA兵長は、韓国国籍者だ。しかし、中国で母方の祖父母と長く暮らし、母方の祖父は中国の元ロケット軍将校だ。A兵長は中国の大学に通っていたが休学。2023年12月に兵役のために韓国に帰国した。前方部隊の補給兵として配置されたA兵長は、入隊後から数カ月後に中国軍の情報組織の情報員として抱き込まれた。A兵長はその過程で中国側の脅迫もあったと主張しているという。
A兵長は5歳だった2008年に韓国で約5カ月間暮らした以外は入隊まで韓国との接点がほとんどなかった。情報機関に勤務した経験のある専門家は「生活根拠と家族が外国にあれば、該当国の情報機関にとっては捕捉が容易だ。家族を口実に脅迫をすることもたやすく、進路保障などをえさに買収することも簡単だと判断するだろう」と話した。
しかし現在、韓国軍にはこのように事実上「二つの祖国」を持つ兵士の軍生活適応や国家観確立のための教育が行われていない。韓国国防部の元高官は「将校や副士官は身元調査をするが、徴兵時にその人物の背景を確認、分類する手続きはない」と話した。一般兵士が取得できる情報水準は低く、その必要性は低いという判断もあるが、法的根拠や関連政策がないことも一因だ。
2009年までは「外見上明らかな混血児または父方で成長しなかった混血児」の場合、兵役免除を受けることができた。2010年に兵役法を改正し、同条項は削除された。少子化で兵力資源が減る中では避けられない変化だった。韓国籍を持つ男性で国籍を維持する意思があり、身体が健康であれば、どんな背景の人物であれ兵役に就く可能性が高くなった。
それに加え、国際結婚の増加に伴い、韓国社会が国際化するにつれ、両親の片方が外国人であるか、両親ともに外国出身で韓国に帰化した外国系兵士が増加している。兵役法が改正された2010年に51人だった外国系兵士は2018年に1000人を突破した。現在では数千人に上ると推定される。問題は「増加傾向」にあるという事実しか分からず、正確な数字さえ集計されていないことにある。
韓国国防部は「多文化家庭(外国にルーツを持つ家庭)出身者かどうかを別途識別すること自体が差別になりうる」という理由で、2016年以降は関連統計の作成を中断した。国防部部隊管理訓令第122条には、「兵営内の将兵に対し、アンケートや別途の調査を通じ、外国系かどうかを識別する活動はできない」と明記されている。国防部関係者は「国家人権委員会が多文化家庭の統合を強調していたためだと聞いている」と話した。しかし、人権委関係者は「人権委が国防部に外国系の将兵を識別しないよう勧告をしたことはない」と説明。「識別禁止措置のせいで、むしろ(外国系の兵士の意識を)統合するための教育や支援もなされておらず、分類が必要ではないかとの意見もある」と語った。
多文化家庭で生まれる人が増え、統計庁は2008年から関連統計を出している。2009年以降は毎年の新生児全体の4~6%が多文化家庭で生まれている。今後韓国軍の5%程度は、外国との血縁関係を持つ兵士が占めることになることを示している。
韓国国防研究院国防人材研究センターのホン・スクチ研究員は昨年1月、国防論壇で「2030年には約1万人に達する外国系の兵士が入隊することになると予測される」と指摘した。多文化家庭の新生児統計に基づき、兵役対象を算出すると、外国系の兵士が軍内で5%程度を占めるとみられる。満18歳になった男性のうち87%が兵役に適合する判定を受けると仮定すると、今年は4400人程度の外国系兵士が入隊したと予想される。2031年には9700人を超える。
国防部は外国系兵士の増加に備え、2012年に軍人服務規律を改正し、「国家と民族のために忠誠を尽くし」で始まる入営・任官宣誓文の「民族」を「国民」に変更した。2013年には「多文化軍隊対策総合対策」を策定した。2019年には「軍人の地位および服務に関する基本法」を改正し、「軍人は多文化的価値を尊重しなければならない」という条項を盛り込んだ。国防部長官が多文化的価値の尊重と理解のための教育を毎年1回以上実施しなければならないという条項もある。
しかし国防精神戦力院の元研究員クァク・テファン博士は昨年発表した「我が軍と多文化」と第する論文で、「こうした変化は『字面』だけに限られる」と評した。2016年以降、外国系兵士の現況把握が中断され、実質的な政策的動きも失われた。クァク博士は同論文で軍が外国系兵士を事実上「無視、放置」しているとし、「多様な文化的背景を持つ人たちが戦友として呼吸を共にしなければならない将来の兵営で結束を保障できなくなるのではないか」と懸念した。
志願兵の割合が高い空軍・海軍はまだそうした問題が顕在化していないが、徴兵が多い陸軍では多文化政策の不在で適応上の問題に直面する兵士が既に出ているという。上官の指示を理解できないほど韓国語が下手な外国系兵士がいかなる支援もないままで前方部隊に配置されるケースもあるという。指揮官は裁量で彼らを管理しなければならないため、現場が苦しんでいるという話もある。
現在、海軍大学に勤務するクァク博士は本紙の電話取材に対し、「外国系の兵士が外国の情報員として抱き込まれるといった問題は、スパイ防止部隊がもっと熱心に活動すれば防げると考える」と話した。それ以前に多文化軍の国家観確立、韓国語・韓国文化に不慣れな外国系兵士の支援など実質的な問題も多いとの指摘だ。
■シンガポールは徴集兵全員の身元調査
外国系兵士の意識統合は、韓国より移民者が多い先進国が悩んできた問題だ。多くの先進国で少子化傾向によって兵力資源が減少する中、永住権者や外国人の入隊を認める国も増えている。しかし外国出身の兵士が母国に機密を漏えいする事件も相次ぎ、身元検証とスパイ防止の重要性も高まっている。
米国はオバマ政権時代の2008年から16年にかけ、外国人特殊技能者を対象にした兵士募集プログラムを運用した。米軍に従軍すれば家族まで移民が可能となることから人気があったが、2017年に中断され、現在は永住権がなければ入隊できない。豪州も兵力資源の減少を克服するため、昨年から永住権者の入隊を許可した。しかし、募集対象はニュージーランド、英国、米国、カナダなど友好国出身に制限されている。
イスラエルとシンガポールは永住権者にも徴兵制を実施している。外国人でも永住したければ兵役に就けというわけだ。イスラエルは外国に居住するユダヤ人のための兵士募集プログラムも運営し、ヘブライ語教育なども別途に行っている。
中国系、インド系、マレー系が混ざって暮らすシンガポールは、徴兵時に身元調査を行い、配置を変えているという。シンガポール南洋理工大軍事学プログラムのチャン・ジュインイエン副教授は「配置先の敏感性によって程度が異なるが、全ての徴集兵が検証される」と話した。
これに関連して、少数のマレー系兵士が軍内で組織的差別を受けているという指摘もある。オーストラリアのシンクタンク、ローウィ国際政策研究所のティム・ハクスリー博士はシンガポールの防衛政策に関する著書で「マレー系は依然として高い等級の秘密取り扱い認可を受けることが難しく、戦闘兵科にはあまり配置されない」と指摘した。しかし、あるシンガポール専門家は「軍では忠誠心が重要だ。 戦争が起きた際、どの国の側で戦うのかを問わざるを得ない」と述べた。
キム・ジンミョン記者
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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