▲北朝鮮の金正恩総書記。/写真=朝鮮中央テレビ・聯合ニュース
一時期平壌に長期滞在していたことのある企業関係者から聞いた話だ。平壌にちょうど1カ月滞在し、ある朝起きたときのこと。歯磨きをしながら、北朝鮮の体制宣伝歌謡を口ずさんでいる自分にびっくりしたという。1カ月でこれなら、生涯にわたり北朝鮮当局の洗脳を強要されている住民たちはさぞや、というわけだ。2017年に36年ぶりに開かれた第7回党大会で4000字を超える金正恩(キム・ジョンウン)称賛文を暗唱しなけ..
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▲北朝鮮の金正恩総書記。/写真=朝鮮中央テレビ・聯合ニュース
一時期平壌に長期滞在していたことのある企業関係者から聞いた話だ。平壌にちょうど1カ月滞在し、ある朝起きたときのこと。歯磨きをしながら、北朝鮮の体制宣伝歌謡を口ずさんでいる自分にびっくりしたという。1カ月でこれなら、生涯にわたり北朝鮮当局の洗脳を強要されている住民たちはさぞや、というわけだ。2017年に36年ぶりに開かれた第7回党大会で4000字を超える金正恩(キム・ジョンウン)称賛文を暗唱しなければならなかった、当時の7-13歳の「少年団」の子どもたちの心情はどうであったか。
金日成(キム・イルソン)は、インスタントカメラを持って田舎の奥地の学校を訪れ、赤いスカーフを首に巻いた「少年団」の子どもたちの写真を撮ってあげたり、一緒に記念撮影もしたりした。北朝鮮の記録映画「われらの首領様」は、こうした金日成を「国中の父」と称賛した。金日成は、肝心の孫である金正恩(キム・ジョンウン)とは「仲良く2ショット」しなかったらしい。そういう写真があれば北朝鮮が真っ先に公開しただろう。
人民のためだとして祖父が生前過ごしていた私邸を取り壊してしまい、「祖国統一」の遺訓を覆していったのも、もしかすると在日朝鮮人出身の舞踊家だった母親を金氏一家の嫁としては認めなかった祖父に対する鬱憤(うっぷん)晴らしなのかもしれない―と思う。金正恩時代の変化を「かつてとは比較できない飛躍的発展」と褒めたたえ、楽園浦の人々が「経済力が弱くてこれまで町の名前を呼ぶのも恥ずかしかった」という文章を労働新聞に載せるのも、先代を遠回しな言い方でおとしめる手法を使った金正恩の偶像化、と読める。
朝鮮労働党規約の前文は「朝鮮労働党は偉大なる金日成・金正日主義党だ」で始まる。金正恩が受け継がされたのは「血統」だけなのに、先代の最大の遺訓である「統一」も廃棄し、先代を上回る可視的成果をつくり出したのだから、真に偉大なのは先代ではなく金正恩でなければならない。煩わしい先代は既に片付けて、残るは北朝鮮住民が憧れてやまぬ南韓だけだ。
「敵対的2国家論」は、北朝鮮住民に対する、南の方は仰ぎ見てもいけない、考えてもいけないという脅しだ。互いに気にせず過ごそうと言いながら、実際には韓国メディアが報じる大統領や主要人物の発言、果ては政府当局者の言葉にまでいちいち突っかかるのは、どう考えても韓国政府を手なずけようとする「ガスライティング(誤情報を与えたり嫌がらせを続けたりして、相手を心理的に支配しようとする虐待の一種)」だ。北朝鮮住民にも分かりやすく言い換えるなら「惑わされて殺される」くらいになる。
金正恩は、政権樹立1年目の2012年に新年の辞で、国家発展の目標として「社会主義文明国の建設」を提示した。北朝鮮内閣の内部文書には20年までに、靴下3500万足、質の良い靴6000万足を生産して人口1人当たり2-3足の靴が行きわたるようにする、という目標が含まれていた。少し前、金正恩が出席した白頭山近くの三池淵ホテルの竣工式に動員された北朝鮮の女性たちは、真冬の寒さにもかかわらずマフラーも手袋もないまま、春・秋に着用する薄いスキンカラーのストッキング姿で最高指導者を迎えた。文明国の女性は、真冬にそんな服装で凍えるようなことはしない。
5年前の第8回党大会で、金正恩は経済の失敗を自ら認め、長々と9時間も演説した。今や、過去5年の成果を評価して今後5年間の対内・対外政策の方向を確定させる第9回党大会が目前だ。だが北朝鮮住民の暮らしは依然として「いつもこんなありさま」にとどまっている。その責任を押し付ける上で、韓国は手頃な相手だ。だが「自力更生」のスローガンを叫ぶばかりで体制のリーダーシップ維持のために責任は外部に転嫁するという「対南ガスライティング」を続ける限り、北朝鮮は決して真の文明国にはなり得ない。
核・ミサイル技術ばかり高度化してどうするのか。住民たちの衣食の問題が解決しない限り、文明国など思いもよらない。第9回党大会は、住民たちの実質的な暮らしを直視し、核武力強化を優先する根本的政策基調が変化する機会になるべきだろう。
キム・ミンソ記者
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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