【大邱惨事1カ月】妻を亡くした李サンチョルさん「悪夢の1カ月だった」

 「15日、義母(68)が家に来ました。朝、妻の夢を見たと言って。妻は裸で『お母さん、寒いよ』と言いながら震えていたそうです。義母は何かにつかれたように、妻の服や布団を庭先で燃やしたらしいです。『あの子、国科捜(国立科学捜査研究所)の冷たいセメントの床に寝かされているよね。寒いだろうに…』と言っていました」

 2月18日に発生した大邱(テグ)地下鉄放火事件で妻の朴ゴンヒ(35)さんを失った李サンチョル(ムンソン漢方病院・院務係長)さんは、「この1カ月間はまるで地獄のようだった」と話す。

李さんの職場は、犯人の金大漢(キム・デハン)被告が2年前に脳卒中治療を受け、犯行1週前には「殺してくれ」と騒ぎを起した病院。

「まだ妻が生きているのか、死んでいるのかも確認できない現実が信じられません。妻の冥福を祈るお墓でも立ててやれない限り、日常生活はできないと思います…。補償も、再発防止も重要でしょうが、妻の遺体を確認したい、今はそれだけです」

 李さんを苦しめるのは突然いなくなってしまった妻への思いだけではない。今年小学校に入ったばかりの息子(8)と5年生の娘(12)の行動は李さんを困惑させる。「子供たちは妻がいなくなってから口をきかなくなりました。今月3日に息子が小学校に入学しましたが、母のいない入学式の日のことを思うと、今も胸が張り裂けそうです」

 息子は最近、どこかへ電話をかけることが多くなった。李さんが近寄ると慌てて電話を切ってしまう。怪訝に思っていた李さんだが、息子から「ママの携帯電話にかけているんだ。ママに会いたい。電話でもかけてきてくれないかな」という話を聞いて、一緒に泣いてしまったという。

 娘の担任教師からは、娘がノートなどに「金大漢」という字ばかりを書いている、ということを聞かされ、ひやりとした。娘は「ママを殺したあの悪いおじさんの名前を100回書けば、あのおじさんも死ぬはず」と思ったそうだ。事件直後、「犯人を許そうと思う」と話した李さんだが、子供を見ると混乱してしまう。

 李さんの体重は1カ月前より5キロ以上も減った。想像を絶する苦痛の中で1カ月をすごしたためだ。李さんは先週から仕事を始めた。家に閉じこもっていると妻のことばかり思い出してしまうから、仕事はしなくてもとりあえず出勤した方がいい、と病院長に勧められたからだ。

 しかし、いざ病院にいると「いつ妻の遺体を確認し、引き取れるか分からないのに、対策本部にでも行っているべきではないか」という思いがして、不安になるという。

 李さんは最近、習慣的に携帯電話に入力させた呼出音を聞いている。「ブラウン・アイズ」の『段々』という歌の歌詞が自分の心を物語っているように思えるためだ。

「君が遠ざかっていく/笑っている僕を見てよ/時には何日の安らかでいられる/昔の出来事のように/どんどん君が離れていく…」崔慶韻(チェ・ギョンイン)記者
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